球道雑記BACK NUMBER
プロ野球ファンサービスの実態と、
ある選手がカープ少年だった頃。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byKyodo News
posted2019/02/21 08:00
中日の松坂大輔がファンとの接触によって右肩を痛めたことから、ファンサービスの在り方で議論がまき起こった。
ファンが少なくても丁寧に。
過去3年間の一軍通算成績は39試合2勝4ホールドポイントで防御率は6.65。昨年は自己最多の17試合に登板し、防御率は4.15。今季こそ一軍に定着し、名前を売り出していきたいこれからの投手だ。
一軍定着がまだなのだから、藤岡と比べるとややファンの反応も鈍い。当然、サインを求める数もまばらであるし、中には顔と名前が一致していない人もいる。
それでも彼はひとりひとりのファンに対して丁寧なファンサービスを行う。サイン1枚を書き終えては、必ずファンに、礼も欠かさない。
書いてもらう側が「ありがとう」と言うのではなく、書いた側が「ありがとう」と言うのだ。つまり自分を応援してくれてありがとうという意味なんだろう。なんという謙虚さだ。
東出からボールをもらって。
その後、高野にも藤岡同様、ファンサービスの意識について質問をした。すると彼は、自分が1人の野球少年だったころの思い出とともにこんな考えを明かした。
「僕は広島出身なので、子供の頃、カープが好きでした。でも、選手はあまりよく知らなかったんです。周りの友達がみんな好きだったので、自分も好きになった。最初はそんな感じだったんです。当時はまだ広島市民球場の頃で、フェンスが結構低かったんです。確か小学校3年生の時だったんですけど、そこによじ登って『ボールください、ボールください』って近くの選手に叫んだんです。
でも、誰かはよう知らんのですよ。そしたらグラウンドの向こうからボールが飛んできた。『あっ、ボール来た、お父さん、あのボール投げた人だれ?』って聞いたんです。そしたら父が『あれは東出(輝裕)選手だよ』って教えてくれて、僕はそこから東出選手のファンになったんです。そこからテレビを見ているときも『おっ、東出選手や』って言うようになってね。
だから、僕の顔と名前を知らなくても、自分はあまり気にせんのですよ。サインを書いたこと、それで僕を知ってくれたら嬉しいですし……僕もボールをもらったのがきっかけで、東出さんをテレビで応援するようになった。だからサインを書いたことで、『あの時、サインをくれた人やな』って覚えてくれたらいいと思っているんです。そこから好きになってくれたら」