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原巨人の知られざる的確な補強。
メジャーで学んだ敏腕の履歴書。
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph byKyodo News
posted2019/02/12 07:00
炭谷銀仁朗、丸佳浩をFAで獲得した一方、人的補償で内海哲也、長野久義が移籍。原監督はその裏で、着実にチーム作りを進めていた。
イチロー、青木らをサポート。
大学での4年間を生かすために、当時の大倉孝一コーチ(現・駒大野球部監督)に実社会での勉強を勧められ、外国のスポーツ機器販売やトレーナーの派遣を行う会社に就職した。
高校、大学、社会人、プロ野球チームを営業で回るようになり、当時、近鉄の抑えを務めていた大塚晶文氏(現パドレス傘下投手コーチ)と出会うと、'05年に大塚氏の通訳としてパドレス入り。そして、'06年からはマリナーズで数々の日本人選手をサポート。昨年までマリナーズでイチロー、城島健司、岩隈久志、川崎宗則、さらに一時は青木宣親の通訳も務め、実践知を積み上げてきた。
「これまで先発、中継ぎ、捕手、内野手、外野手の通訳を担当させてもらいました。誰もが得られる機会ではなく、ポジション別の選手の気持ちや悩みを理解できるようになれたのは僕の大きな財産です」
近年、アントニーは通訳の枠を超え、環太平洋地域のスカウティング部門のサポートもしていた。大谷翔平(エンゼルス)、菊池雄星(マリナーズ)、菅野智之、千賀滉大(ソフトバンク)、則本昂大(楽天)、涌井秀章(ロッテ)らを、マリナーズのジェリー・ディポトGMやスカウト担当者とともに日本で視察。彼らの観察眼や補強への道筋の付け方など、戦力整備の基本を見てきた。
“フレッシュデータ”の獲得。
また、人脈を介して独自の情報収集にも努めてきた。
「例えば、試合に出ている捕手や投手に『今年、最もアウトを奪うのが難しかった打者は誰か』を振り返ってもらうんです。その理由を分析することで、既存のデータとは違う皮膚感覚を得られたりします。僕はこれを“フレッシュデータ”と呼んでいます」
さらに、現場で選手の心情に寄り添ってきたことで、研ぎ澄ましてきた感覚も持ち合わせている。
「選手が体調面や家族のことで少しでも問題を抱えれば、プレーにも何らかの影響は出ます。フィールド外の不安や問題を少しでも軽減できるよう、親身になれる関係を作っていくことはとても大事なことです。当たり前ですが、野球は人間がするスポーツです」
フロントとの一体化を図る上で欠かせない、現場を俯瞰する目と感性をアントニーは養ってきたのだ。