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松井裕樹は守護神を再び奪い取る。
心に秘めた「今年、見てろよ!」。
posted2019/02/11 11:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
伸びのあるストレートが勢いよく捕手のミットに収まる。ボールが狙ったコースより少し高くても気にしない。いい感覚を忘れたくないと自分に言い聞かせるように、楽天の松井裕樹は躊躇することなく滑らかに腕を振る。
久米島での春季キャンプ。松井の球質は第1クールからほぼ仕上がっているように映った。「非常に、調子がよろしい印象があるけど」。少しフランクに様子を窺うと、「非常に、調子がよろしいです」と質問を反芻するように答えるだけの余裕もあった。
「ここ数年では一番いいですね。今までのこの時期なら、『このコースに投げたい』って意識が持てない状態だったんですけど、今年は多少、ボールが高くてもコントロールできていますね。
フォームの部分でも、下半身をうまく使ってリラックスして投げられる確率が高くなっていますし。去年の12月から1月にかけての自主トレで取り組んできたことがちゃんと出せていると思います」
表情はすこぶる明るい。
何度も口にする「やり返したい」。
松井は今年、「ここ数年では一番いい」と同時に、ここ数年で最も悲壮感を秘めたシーズンを迎えようとしている。
競争を前面に打ち出す平石洋介監督の方針は、守護神であっても例外ではない。昨年、プロ野球史上最年少で100セーブをマークした松井ではあるが、抑えに転向してから最も少ない5セーブと苦悩の1年を送った。厳しい現実は自身も重々理解していることだ。
「自分では後ろ(守護神)で投げたい気持ちはありますけど、監督からは何も言われていないので争う覚悟はあります。自主トレから抑えをやるために練習してきましたし」
松井は1月の公開自主トレから、何度も「やり返したい」と口にしている。それは、2017年まで3年連続で30セーブを挙げ、「不動の守護神」と呼ばれた男の意地だ。
今でも忘れてはいない。昨年のZOZOマリンでのロッテとの開幕戦。1点リードの9回にマウンドに上がったが、痛打を浴び同点とされた。チームは延長戦を制して勝利したものの、オープニングゲームでの悔いは松井の脳裏に今も焼き付いている。奇しくも、今年も同じ舞台で開幕戦が控えている。