錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
「一番キツい時にジョコビッチ」を
避けるため、錦織圭に必要なこと。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2019/01/24 17:00
“鬼門”ジョコビッチがまたも立ちはだかった形だが、あれだけの激戦の後の棄権を誰も責めることはできない。
死闘からの「回復が難しかった」。
1、2回戦とフルセットを戦い、3回戦こそストレート勝ちをおさめたものの、スペインのパブロ・カレノブスタとの4回戦、2セット連取を許した試合前半にすでに疲れは見えていた。劇的な逆転勝ちをおさめたが、5時間5分にも及んだ死闘からの「回復が難しかった」と打ち明けた。
その4回戦のあと、今大会でフルセットの戦いが増えているのは何か問題があるのかと聞かれ、「勝っているので、問題はないと思います」と多少カチンときた様子で答えたが、あれは本心ではなかったのではないか。準々決勝、準決勝を突破する条件は、勝つことではなく勝ち方にあることを錦織自身が一番知っていたはずだからだ。
準々決勝を前にした時点の状態については、「疲れはありましたけど、痛みではないので、がんばればどうにかなると思ってました」と語ったが、ほかでもないジョコビッチを打ち負かせるコンディションでなかったことは間違いない。
「彼とやるときはいつも満身創痍というか……一番キツいときに彼との試合がくる」
それはそうだろう。ジョコビッチと錦織のランキングなら、ともにシードがついているため大会の序盤戦では当たらない。これでジョコビッチとの対戦成績は2勝16敗となったが、18回の対戦のうち15回が準々決勝以上での対戦だ。
また、対ジョコビッチ戦においての途中棄権はこれが初めてだが、16敗の中に錦織が戦わずして試合前に棄権した2度の敗戦は含まれていない。その2度もまた、マスターズでの準々決勝と準決勝である。
フルセットの突入率がそもそも高い。
「一番キツいとき」にジョコビッチとやりたくなければ、ランキングを落としてシード選手でなくなるというのが1つの手だが、真剣に論じる話ではない。
それなら、「満身創痍」にならないようにするしかなく、そのためには大会前半で長丁場の試合をしないか、連続長丁場に耐えられる体を作っていくしかない。
前述したように、錦織の最終セットでの強さはデータが証明しているが、同時にそれは苦しみながら歩んできたグランドスラムの歴史でもある。
キャリアを通した5セットの成績は21勝6敗。たとえばジョコビッチは29勝9敗だが、ジョコビッチはグランドスラムで錦織の3倍近い試合数を戦っている。錦織が最終セットに突入する確率の高さがうかがえる。1つ年下でよくライバル扱いされていたミロシュ・ラオニッチなど16試合しか5セットを戦っていない。