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フェンシング高円宮杯W杯を戦う
若き精鋭。松山、西藤、鈴村の覚悟。
text by
宮田文久Fumihisa Miyata
photograph byYasunari Kikuma
posted2019/01/17 07:30
全身ビームスのスーツに身を包んだフェンサーたち。写真中央上が松山、下が西藤、左が鈴村。
鈴村にとってW杯は特別。
鈴村健太にとって、高円宮杯ワールドカップは、特別な大会だ。岐阜県立大垣南高校時代、初めて出場したシニアの国際大会が、この高円宮杯だったのだ。
「それまで世界のトップシニアと剣を交える経験がなかったのですが、高校1年の時に呼んでいただいて出場しました。その時、ベスト64に残れたんですね。当時まだ現役だった太田雄貴さんを含めて、日本選手は5人ぐらいしか残っていなかった。そのとき、僕は世界でも戦える、自分にもチャンスがあるんじゃないか、と思ったんです。
2008年北京で太田さんが銀メダルを獲って以来、自分の夢となっていた五輪でのメダルが、夢でなく、具体的な目標に変わりました。そのきっかけとなった大会なので、思い入れは強いですね」
大垣南高校から、法政大学に進学。前回大会の団体3位にも貢献し、順調な成長を遂げてきている。
182cmという日本人としては恵まれた体格を生かした大きなプレースタイルは、試合会場でも目を引く。長いリーチを生かし、遠い間合いから放たれる思い切ったアタックは意外性に満ち、フェンシングのダイナミックな魅力に満ちあふれている。
「ボクシングでも、パンチを打つ予備動作が見えたら相手もガードをしてしまうのでしっかりディフェンスできますよね。でも、その予備動作がないままに、不意に打たれると反応できない。僕は、相手の間合いよりも2歩くらい遠いところ、『この距離はまだ安心だ』と油断しているタイミングで、予備動作なく、ズドンとアタックを仕掛けられる。相手はどうしても避けるのが遅れますから、そのアタックが実らなくても、そこから次のプレーへとつなげていけます」
「軸」を持って世界の頂を。
フェンシングの時間と、その他の時間。鈴村はオンとオフをハッキリ区切り、オフの時間にはJ-POPを聴いたり、ゲームに興じている。『ポケットモンスター』などの育成ゲームや、『ドラゴンクエスト』といったRPG。「ゆったり、こつこつ」楽しめるゲームが好きだというように、練習でも「マイペース」なのだそうだ。
「遠い間合いで攻めるのが好きなぶん、近い間合いがあまり得意ではなくて。最近は『壁突き』という、人形相手の練習で、近い間合いではその場で突くのがいいのか、一歩離れてスペースをつくってから突くのがいいのか、ずっと練習場の隅っこで試行錯誤しています。知らない人が傍から見れば、チョンチョンと一人で何やっているのか? っていう感じでしょうけど(笑)」
ナショナルチームに入っていることから、所属大学以外でもいろんなアドバイスを受けるようになった。そういった幾多のアドバイスも、鵜呑みにはしない。しっかりと取捨選択して、必要だと思ったものは、「自分の軸という幹に、枝をつけていく」ように取り入れていく。
「大事なのは軸です。軸がないところに枝をつけても、飛んでいっちゃいますから」という独特の表現でフェンシングを語る鈴村は、今大会でも、地に足をつけた目標を掲げた。「まずは国際大会の最高記録であるベスト32以上を目指します」――まさに一歩ずつ、世界の頂を目指す。