セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
セリエAで最もゴールを奪うクラブ、
アタランタとガスペリーニの美学。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2019/01/09 10:30
70年以上の歴史を誇るクラブは2016年のガスペリーニ監督の就任を境に、ここ2年は4位、7位と上位へ躍進している。
恩師が語る「頑固者」。
8年前、ガスペリーニの師匠にあたる名将ガレオーネにインタビューしたことがある。確か教え子の1人であるガスペリーニが、インテルの監督を解任された翌々日だった。
1987年にペスカーラを率いていた彼は、現役時代のMFガスペリーニとともに“シャンパン・サッカー”でセリエA昇格を勝ち取った。
街角のバールで地元の名産白ワインを勧めてきたガレオーネは「わしはファンタジーを愛しているんだ。ファウルすることが前提のサッカーは大嫌いだ」と言った後、何の後ろ盾も持たず権謀術数が飛び交い、魑魅魍魎が巣食うビッグクラブであるインテルに飛び込み、孤立無援の末にあえなく放り出された教え子の当時の純粋さを哀れんだ。
「ジャン・ピエロ(・ガスペリーニ)は実直で曲がったことが嫌いな男だ。自分の理想をまっすぐに信じすぎる。言いかえると融通が利かないところがある。頑固者なんだ」
やはりガレオーネ門下生であるユベントス監督アッレグリは、サッカーに求められるのは勝利か内容か、と問われた際「娯楽を求めているのならサーカスを見に行けばいい」とにべもなく言い放ったことがある。
アレッグリ以上の楽しさ。
実績でいえばアッレグリはとうの昔にガレオーネを越えた。ただ、胸躍るサッカーを尊ぶ師匠の教えを今も忠実に色濃く受け継いでいるのは、ガスペリーニの方ではないかと思う。
FWサパタは、3シーズン前にプレーしていたウディネーゼでは当時の指導者デルネーリから「足元の技術がなくて使えない」と冷遇された。だが、夏にアタランタへやってきて、ガスペリーニから授けられた指導は異なっていた。
「監督の教えるサッカーは随分他とちがうんだ。だから初めは戸惑った。監督の教えで例を上げるなら『敵陣の最も深いところに突っ込んでいけるスペースがあるときは、絶対にゴールに背を向けるな』ということ。新しいプレーコンセプトを体に馴染ませるのに時間がかかる」