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スポーツ業界は“物好き”頼みに終止符を。
並木裕太が考えた経営人材活用法とは?
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byGetty Images
posted2019/01/08 07:00
ヒューストン・アストロズのGMジェフ・ルノー。MLB界では、球団経営面でも様々な革命が起こっている。
ビジネス界からの転職組が多いMLB。
さらに興味深いのは、日本のスポーツ界ではほとんどが選手経験者で占められるGM職(チーム強化・編成部門のトップ)でさえ、MLBではビジネス界からの登用が盛んに行われていることだ。
並木によれば、選手やコーチ経験者がGMを務めているのは7球団だけ。残りはほとんどが、先述したスポーツ・エグゼクティブと、ビジネス界でのし上がってきた経営のプロフェッショナルたちなのだ。
おもしろい事例がある、と並木は言う。
「2011年から“3年連続100敗”するような弱小球団だったアストロズ。同年末、そのGMにジェフ・ルノーという人物が就任します。
彼は『どうせ最下位なんだから』と強化費を大胆に削り、浮いた予算でベネズエラにアカデミーをつくった。そこで発掘・育成された新たな才能が徐々に戦力になったこともあって、2017年についにワールドシリーズを制したんです。
ルノーGMの経歴は、世界でもトップクラスのケロッグ経営大学院でMBA取得、マッキンゼーでコンサルタントを経験して、事業会社の重役や自ら創業した会社の社長などを務めた一流のビジネスマン。
たしかに考えてみると、アストロズの再建というのは、不採算部門への投資を減らして別の事業で売上を確保していくかのような、極めて経営的・ビジネスマン的な判断によってなされたものと言える」
野球の素人をいきなり採用する業界。
野球とはまったく縁のないキャリアを歩んできたルノーが球界に進むのは2003年のこと。カージナルスのスカウト部長に就任した。そして2011年のワールドシリーズ制覇を置き土産に同球団から離れ、アストロズのGMに転じたのだ。
彼がなぜ野球界への転職を決断したかは定かではない。ただ、MLBというフィールドに“普通の会社”にはない魅力を感じたであろうことは容易に想像できるし、球団側が“野球のずぶの素人”を雇うことに対してオープンな姿勢を持っていたことも間違いないだろう。
NPBの4~5倍とも言われる売上規模を誇るMLBだから、収入が大きく減るのを我慢しなければならないような状況にも、なかったはずだ。
オーナーの知り合いか、収入度外視の“物好き”か、選手経験者か。経営者やGMへの門戸が極めて限定的な日本とは明らかに違う。