F1ピットストップBACK NUMBER
2018年、ホンダF1活動が一枚岩に。
「檻から解き放たれた」開発能力。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2018/12/30 17:00
左から山本雅史部長、トロロッソ代表のフランツ・トスト、田辺豊治TD。チームとも良好な関係を築いた。
2つの立場の円滑さが重要。
これで開発は、ライバルたちと同様、分進日歩で進めることができる。しかし現場と開発を分ければ当然、元々懸念していたようにすれ違いが起きやすくなる。現場と開発のコミュニケーションの重要性は、ホンダの海外でのモータースポーツ活動に長く従事してきた田辺が痛いほど理解していることだった。
「私はF1に復帰する前に、アメリカでインディをやっていましたが、そのときも、開発側と現場の関係があまりうまくいっていなくて、それを立て直すことが最初の仕事でした。
今回、現場のテクニカルディレクターを任されたときも、現場と研究所のコミュニケーションを私のやり方でモディファイさせてもらいました」
現場の仕事というのは「レースをお祭りに例えるなら、お神輿を担いで移動するようなもの」だと田辺は語り、こう続けた。
「昨年までは『このお神輿は怖くて乗れない』状況でした」
そこで田辺は神輿のリーダーとして、現場の意見を開発側のリーダーである浅木に伝えた。
研究所の意見も取り入れて。
浅木はホンダの第2期F1活動を経験していたベテランで、開発を行なううえで、現場の声がいかに重要であるか十分理解している。
ただし、現場の意見をすべて聞き入れていても開発は進まないことも熟知していた。現場から上がってくる要望を取捨選択し、さらに選択したものに、いかに正しく優先順位をつけて取り組むのか。その点において、浅木には鋭い感覚が備わっていた。
「浅木は私たち現場の人間が気になっていることがあると、同じように不安に感じてくれていたし、こちらが『このアイディアはいいな』と思うことは、どんどん開発を進めてくれて、現場側としてはストレスなく仕事ができました」(田辺)
浅木が耳を傾けたのは、現場からの声だけではなかった。研究所の中にいる、F1活動の担当部署以外のスタッフの意見も積極的に取り入れた。その様子を山本が次のように語る。
「シーズンの途中で、浅木が研究所で仕事をしているスペシャリストたちを集めて、開発の方向性についていろんな議論を交わしていました。その結果、開発が加速度的にスピードアップした」