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さらば王者。F・アロンソ、
三大レース制覇へ――新たなる出帆。
posted2018/12/29 17:00
text by
今宮雅子Masako Imamiya
photograph by
Mamoru Atsuta (CHRONO GRAPHICS)
若き力が台頭する一方、偉大な王者がF1を去った。
貴重な本人取材に基づいた雑誌Numberでの短期集中連載
「F1 Climax 2018」全4回を順次全文公開します。
最終回はNumber967号('18年12月6日発売)より、
来季はF1を離れて世界三大レース制覇に挑むフェルナンド・アロンソ!
最終戦アブダビGP――シーズンを勝利で締め括ったルイス・ハミルトンがヘアピンの観客スタンドの前でドーナッツターンを始めると、2位でゴールしたセバスチャン・ベッテルも次のコーナーで勝者に倣った。ハミルトンがベッテルに合流すると、ふたりは互いの意志を汲み取ったように"3人目のチャンピオン"を待つ。
フェルナンド・アロンソが追いつくと、メルセデスとフェラーリはコース上のマクラーレンをエスコートするようにランオフエリアを走り始めた。そしてセクター3でコースに合流。3台のマシンが横一列に並んで、美しいパレードが実現した。
ホームストレートに戻ってきた3台は、大歓声に包まれながら3つの輪を描く。人工の光の下、タイヤから盛大に上がる白煙が舞台をいっそう白く包み、シルバー、オレンジ、レッドの3色が輝いた。それは、事前に用意されたシナリオではなかった。
「ルイスとセバスチャンがあちこちでドーナッツターンをしてると思ったら……すごく感動的なインラップだった」と、最後のレースを走り終えたアロンソが言った。
「ルイスが同じことを考えているかどうか最初は心配だったんだけど、上手くいってよかった」と、ベッテルが笑う。
「グランドスタンドのファンもドーナッツを見たいんじゃないかな」と、メルセデスは粋な無線をドライバーに送った。
アブダビのファンは、夢のようなフィナーレを心に刻んだ。切なさが近づいているから、余計に美しいのだと感じながら。
F1史上最年少勝利という驚き。
'03年のハンガリーGPで飾った初勝利をひと言で表現するには「驚き」しかないとアロンソは振り返る。22歳の誕生日から1カ月も経たないで手にした勝利は、F1史上最年少(当時)で手に入れたものだった。
「'03年のルノーで優勝できるなんて、微塵も想像していなかった」
その後、長い歴史を築くことになるドライバーを象徴する勝利だった。
アロンソがF1に刻んだ32の勝利は、その大半が驚きに満ちている。タイトルを獲得した'05~'06年にも、彼のルノーが性能面で他を引き離したことは一度もなかった。F1界で5番目の予算で戦っていたチームは優れたマシンを製作する技術を備えながら、開発スピードではフェラーリやマクラーレンに劣り、勝つためにはドライバーの腕と強靭な精神力を必要とした。