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W杯ベルギー戦、2点リード後の痛恨。
手倉森誠「いつもあった謙虚さが」
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byKazuo Fukuchi/JMPA
posted2018/12/30 07:00
ロストフに広がった勝者と敗者のコントラスト。日本サッカー史に残る激闘だった。
負の側面があるとすれば。
――負の側面については?
「彼はアルジェリア代表監督として、ブラジルW杯でベスト16入りした。成功した自分と失敗した日本、というとらえ方だった気がする。ハリルさんが求めたタテへの速さとデュエルは、実はアギーレさんも取り組んでいた。違ったのはアプローチで、ハリルさんはそのふたつをすごく強調した。
アギーレさんと同じことを求めながら、ハリルさんはブラジルW杯のサッカーも、アギーレさんのサッカーも、一度分断してからのアプローチだった印象がある。あとは、直前まで競争意識を高めた代償として、チームの骨格ができにくかった。それについては、最終局面で築こうとしたのだろうけれど」
――西野さんは、ハリルさんのサッカーを継承しましたね。
「そこはつなげなきゃいけなかったところ。守備に関しては前線からのプレッシングだけでなく、ブロックを組むことも自分たちの決断だ、リアクションではなくアクションだという共通理解が成立した。攻撃については、西野さんは主導権を持っていればさほど口出ししない。
個々の判断で攻撃を作り直すのも主導権を持つことという理解に至ったので、選手はやりやすくなったし、任せてもらえることにやり甲斐を感じて、責任感も強まった。自ら判断してサッカーをすることで、1人ひとりの持ち味が発揮された。日本人らしいサッカーが、オールジャパンのスタッフによって表現できた」
――ベルギー戦はあと一歩でした。
「'16年のリオ五輪アジア最終予選の決勝で、韓国に後半開始早々の時点で0-2とリードされた。その瞬間、相手ベンチが『3点目を取りに行け、5点でも取りに行け』となった。謙虚さを失った彼らに対して、我々は3点を奪って勝った。ベルギー戦はまったく逆の立場になったな、と」
――2点リードしたあとも3点目を取りに行った、追いつかれても90分以内に決着をつけたかった、と西野監督は話しました。
「ロシアW杯に挑む我々は、直前のテストマッチでパラグアイに勝っても冷静だった。コロンビアに勝っても、10人の相手だから勝って当然と思われると受け止めた。セネガル戦は常に先行される展開で、勝ち点1を拾ったのは悪くないと理解した。ポーランド戦は負けて勝ち上がることを選び、ベスト16入りしても心から祝福されない状況があった。そうやっていつでも謙虚だったチームが、ベルギーから2点を取った瞬間に弾けてしまった」