Overseas ReportBACK NUMBER
羽生結弦、通訳への温かい心遣い。
ロシア人大学院生が明かす舞台裏。
posted2018/12/29 07:30
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Ayako Oikawa
彼女に初めて会ったのは、2013年モスクワ世界陸上のことだ。もう5年も前になる。
大会前日にプレスルームで働いていた私たちに、彼女はおずおずと近寄ってきてこう話しかけた。
「日本の記者さんですよね。私、日本語が話せますので何かあったら声をかけてください。なんでもお手伝いします」
勇気を振り絞って話しかけたのだろう。緊張のせいか、顔は真っ赤だった。
カリナ・ガレエワ。
当時、彼女はモスクワ大学アジア・アフリカ学部日本語日本史学科で学ぶ1年生で、世界陸上の期間中、メディア担当のボランティアをしていた。ロシア選手のインタビュー内容を和訳してくれたり、必要な資料を探してくれたほか、おいしいランチの店も教えてもらった。オンオフでとてもお世話になった。
それから5年。今は日本で学生生活を送っている。引っ込み思案だった面影はまったくない。
GPシリーズでは通訳も担当。
今年11月。モスクワで行われたフィギュアスケート・グランプリシリーズ、ロシア大会。ソチ五輪で金メダルの羽生結弦やアリーナ・ザギトワをはじめ、ロシア人、日本人選手が多数出場し、日本からも大勢のメディアが訪れていた。
カリナはそこで通訳という大役を担った。
「フィギュアスケートのGPシリーズでは2013年から働いています。モスクワ世界陸上の後に、メディア担当のスタッフから声をかけてもらったのがきっかけです。今年も一時帰国とタイミングがあったのでお手伝いする事になりました」と話す。
日本での学生生活で日本語に磨きがかかったとはいえ、大勢のメディアが見守る中での逐次通訳はプレッシャーも大きい。カリナが訳した言葉が活字になって報道されるからだ。