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来季F1で跳ね馬を駆る逸材、
C・ルクレールの「スーパー」な才能。
text by
今宮雅子Masako Imamiya
photograph byNoriaki Mitsuhashi
posted2018/12/28 17:00
モナコ出身、貴公子然としたルックスの内面には、成熟した自信と謙虚さが秘められている。
無線で「僕は馬鹿だ!」と。
走行中にミスをしたとき、即座に「ミスをした!」とチームに伝えるドライバーは多くはない。ルクレールの場合は、世界中に流れるかもしれない無線で「僕は馬鹿だ!」と、気持ちいいほどはっきり言う。
「ミスをおかしたときに即、自分のミスだと認識できるのは、とても大切なことだと思うから。それによってミスしたポイントを研究し、時間を失わず改善に向かって歩み出すことができる。僕にとっては、自分に正直でいることが、素早く進歩するための鍵なんだ。だから常に、ニュートラルに自分を見るように努めている」
類稀なドライビング能力に加えて、自らに正直であることが彼の仕事から"感情"という余計な要素を取り除く。チームの元には事実に基づいた貴重なデータだけが残る。ザウバーが飛躍的に速くなった理由は、フェラーリからの援助だけではない。マシンを壊すことなく、性能の限界を正確になぞるように操るドライバーが、グランプリ週末の限られた時間を賢明に使い、最大限に活かしているからだ。
「ザウバーは僕を素晴らしい環境に迎え入れてくれた。今シーズン学んだことは、ここでは話せない――話し始めると何時間もかかるだろうから! エンジニアはセットアップやドライビングスタイルを、フレッド(チーム代表のフレデリック・ヴァッスール)はグランプリ週末の管理の仕方や、精神的なアプローチを僕に教えてくれた。フレッドが僕と同じように正直な人間だということは、とても大きな力になったと思う。何か話したいことがあると僕らは即座に話し合ってきた。時間を無駄にすることは一度もなかった」
フェラーリが認めた"レースする能力"。
デビューから半年しか経っていない9月11日、フェラーリは2019年、シャルル・ルクレールがセバスチャン・ベッテルのチームメイトになると発表した。伝統のスクーデリアがこんなに早く若手の採用を決断したのは、生まれつきのドライビング能力だけでなく、攻守のタイミングを見極めた"レースする能力"を高く評価したからにほかならない。
「マウリツィオ(・アリバベーネ=フェラーリチーム代表)が電話で知らせてくれた。母に連絡したら、彼女は超ハッピーだったよ。モータースポーツ界の人間でなくても、フェラーリで走るというのがドライバーにとって望み得る最高の機会だということはわかっているから」
それから、亡きジュール・ビアンキの父や弟にも、すぐに連絡をした。