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来季F1で跳ね馬を駆る逸材、
C・ルクレールの「スーパー」な才能。
posted2018/12/28 17:00
text by
今宮雅子Masako Imamiya
photograph by
Noriaki Mitsuhashi
だが若き力は虎視眈々と王者への挑戦を狙っている。
貴重な本人取材に基づいた雑誌Numberでの短期集中連載
「F1 Climax 2018」全4回を順次全文公開します。
第3回はNumber966号('18年11月22日発売)より、
来季フェラーリに大抜擢された21歳、シャルル・ルクレール!
第20戦ブラジルGP予選――Q2セッションの終盤、ポツポツと落ちていた雨滴がその量を増したときのことだ。
「けっこう降ってるよ」とピットに伝えるシャルル・ルクレールの無線を受け、タイムの向上が不可能だと捉えたチームはガレージに戻ってくるよう指示を送った。しかしドライバーは即座に否定した。
「違う、違う。僕は(コースに)ステイしたいんだ。あと1回、アタックしよう」
ひとつ先のコーナーのグリップも予測できない状況で、彼が記録したタイムは最初のアタックより0.4秒も速い驚異的なものだった。それによってQ3セッションに進出したルクレールは7位グリッドを獲得。レースでも7位入賞を果たした。トップ3チーム6台に続くポジションは、中堅チームにとって勝利に値する意味を持つ。
慌ただしい予選のなかで、ザウバーという小さなチームのドライバーが起こした小さな奇跡は目立たないものだったかもしれない。でも、ルクレールのドライビングはしばしば、こんなふうにファンの琴線を震わせる。ときにはミスでさえ、感動的だ――鈴鹿の予選中、デグナー1と2の間でスピンしながらコースアウトせず、360度ターンを決めて走り去ったときのように。
「僕はプレッシャーを感じない人間なんだ」
間違いなく、F1でもトップレベルの逸材だ。今年デビューしたばかりの21歳は、来年、伝統のスクーデリア・フェラーリで赤いマシンを駆る。
「プレッシャーがすごく大きくなるってよく言われるんだけど、僕にはちょっと奇妙に聞こえる。プレッシャーを感じる人なら、おそらくフェラーリには大きなプレッシャーがあるんだろう。でも僕は頭のなかからネガティブな要素をすべて振り払って、自分自身と、マシンに乗って行なう仕事だけに集中することができる。人が自分に何を期待しているかということにも、注意を向けない。ベストを尽くせば結果はついてくるものだと思う。もうかなり前から……僕はプレッシャーを感じない人間なんだ」
少年の面影を残しながら、精神的にとても成熟した、芯の強いドライバーだ。言葉の端々に自信が表れても、謙虚さが見事に共存している。驕りは一切、感じさせない。滑らかに話しながら、とても慎重に言葉を選んでいるのは"どう捉えられるか"を気にしているためではなく、自分に対して正直であろうと努める姿勢の表れだ。