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平尾誠二との約束、日本一で結実。
神戸製鋼を変えたカーターと総監督。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byKiichi Matsumoto
posted2018/12/19 08:00
2年前に亡くなった“日本ラグビーのレジェンド”平尾誠二氏の遺影を手にするゲームキャプテンの橋本大輝。
休日も子供を教える総監督。
神戸を変えた人物はもうひとりいる。総監督のウェイン・スミスだ。
オールブラックスの監督、アシスタントコーチを歴任し、2011年と2015年のワールドカップ優勝では陰の監督とも称された。スーパーラグビーのクルセーダーズ、チーフスを監督、アシスタントコーチとして黄金時代に導いた。そんな名将が今季、神戸製鋼の総監督に就任。そのウェインがチームに最も求めたのは「LOVE RUGBY」だった。
「私はラグビーというスポーツが本当に好きなんです」とウェインは言う。
「選手としてプレーするのが年齢的に難しいかなと思い始めた頃ですね、もっとラグビーに関わり続けていたい、ラグビーというゲームのそばにもっといたい、そう思ってコーチの道に入ったんです」
他者と競い合うこと。仲間と力を合わせて大きな相手に挑むこと。そこで勝利するために工夫を重ね、努力を重ねること……ラグビーという競技を構成するすべての要素をウェインは愛する。神戸製鋼のスタッフは、苦笑しながら証言した。
「オフの日も、近所でこどものラグビースクールやグラスルーツのラグビーがあると聞いたら、頼まれてもいないのに見に行くんですよ。こんな外国人コーチは初めてです」
大事なのは歴史を知ること。
そのウェインが、神戸製鋼のメンバーに求めたのは「歴史を知ること」だった。
「チームの歴史、それを支えてきた会社の歴史を知ることは、グラウンドで良いパフォーマンスをするために大事なことなんです」とウェインは言う。
今季、神戸製鋼の選手たちは、7連覇の偉業を築いたOBの話を聞き、阪神大震災後に復興の象徴となった第3高炉の跡地をチーム全員で訪ね、震災当時にラグビー部が、会社が、どんな役割を果たしたかを聴き、学んだという。
自分たちはどんな存在なのか。社会の中で、歴史の中で、どんな役割を果たしてきたチームなのか。それを知ることはチームの力になる。それこそが、自分たちがラグビーをする意味であり、素晴らしさなのだ……ウェインは、チームにそれを教えた。
今季、開幕前の灘浜グラウンドを訪ねて行なったインタビューで、ウェインは言った。
「私たちが目指すのはその試合に勝利することですが、私が重視するのは勝ち負けだけではない。私たちがどんな姿勢で戦っているのか、どんな気持ちで戦っているのか。一番大切なのは、ファンの方々にそれを感じてもらえることなんです」