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J1あと一歩まで迫ったロティーナ。
ヴェルディを去る智将に見た教養。 

text by

海江田哲朗

海江田哲朗Tetsuro Kaieda

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photograph byGetty Images

posted2018/12/13 10:30

J1あと一歩まで迫ったロティーナ。ヴェルディを去る智将に見た教養。<Number Web> photograph by Getty Images

ヴェルディで2年間を過ごしたロティーナ監督。スペイン帰国後、地元紙に来季も日本で指導する意向を示したという。

歴史小説から学べること。

 うだるような暑さの夏、練習終了後、ロティーナ監督はベンチに腰掛け、分厚いハードカバーの洋書を読んでいた。

「サッカーの本はもちろん、小説やノンフィクションも読みます。特に歴史小説が好きです。2000年前、古代ローマ人の政治やそこで起こっていたことは興味深い。敵対する国に勝つために、どんな戦術、戦略を用いたのか。どうやって戦いに臨んだのか。サッカーにつながる部分もあって面白いですよ」

 例えば日本の作家で言うところの塩野七生、あるいは司馬遼太郎、吉川英治……どのようなタイプが好みなのか。詳しく知りたかったが、どう訊いていいのかわからなかった。

 自らが語るべきこと、語るべきではないことの分別がはっきりしていた。2017年8月20日のJ2第29節、V・ファーレン長崎戦では、試合前にバルセロナで起きたテロの犠牲者への黙とうが捧げられた。

「非常に根深い問題で、自分が何かを話すのは難しいと感じますね。スポーツのよいところは人々が団結できることです。サッカーを通じて、若者の教育にも生かせると私は信じています。教育は非常に重要です」

教養を感じさせる指導者。

 私は、ヨーロッパにおける知識階級の考え方、その人物像を直接的に知らない。だが、ロティーナ監督の言葉が深い教養に裏打ちされたものだというのはわかった。

 日本にもサッカーに造詣が深く、日々の研鑽において引けを取らない監督はいる。しかし、広い社会に根差した教養を感じさせる指導者は少ない。

 教養とは単なる知識の蓄積量ではなく、物事を体系的に捉え、社会の成り立ちや構成員の関係性を理解し、自分の知らないことまで想像を届かせる力である。ひいては、あらゆる分野が複雑に絡み合う、立体的な社会地図を持つということだ。

 ロティーナ監督の優れたチームマネジメントの要諦はここだったのではないか。

 個人が厳しい生存競争にさらされるプロの世界で、それぞれ異なる特徴や性質を持つ選手たちをチームとして束ねるには一筋縄ではいかない。

【次ページ】 「大事なのは、選手です」

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ミゲル・アンヘル・ロティーナ
東京ヴェルディ

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