プロ野球亭日乗BACK NUMBER
旧態依然とした野球指導法に革命を!
筒香嘉智、打棒開眼に至る秘話。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2018/11/30 08:00
会心の当たりで、ホームランの打球の行方を追う筒香嘉智。東京五輪での主砲としての活躍が期待される。
いつも自分自身で考える指導を。
「兄は何を教えるにしても、まず僕自身に考えさせる質問がすごく多かったと思います」
しかも裕史さんは、その場で答えは求めずに筒香に実際に試させて考えさせる時間を与えた。そうして結果的に「立てて打った方がいい」と筒香が自分で答えを出すと、満足そうに「そやろ」と答えた、というエピソードが紹介されている。
答えを簡単に教えない。
考えるという過程があるから、それが一度、身につくと深いところで自分のものとなっていく。
例えばスイングひとつにしても「ああしろ」「こうしろ」と形を示して、それを覚えこませるだけでは、一度、その形が崩れたときに、また形を示してくれる人がいなければ元には戻せない。しかし、自分で「なぜ、そういう打ち方がいいのか。バットを寝かせて打つ打ち方と立てて打つ打ち方はどう違うのか」と考えて、試して覚えることで、自分の中でスイングが消化されて入ってくる。そうすると狂いが生じたときにも、ある程度は自分で修正ができるようになる。
そうして考える手助けをすることが、実はコーチングの重要なメソッドなのである。
これはプロの世界に入ってからも、全く同じだと筒香は語る。
逆方向に強い打球を打ちたい!
プロ入り直後から「逆方向に強い打球を打てる打者になりたい」という目標を持っていたが、周囲からは「ホームランバッターになるために引っ張れ」と言われた。実際の打撃練習でもそういうバッティングをすることを半ば、強制的に求められた。
そうしてコーチとぶつかり、様々な軋轢を巻きこした末に2013年オフに出会ったのが、当時、DeNAの二軍打撃コーチだった大村巌(現ロッテ一軍打撃コーチ)だった。
「自分の経験もありましたし、日本ハムでコーチをしているときに指導者研修を受けて『まず指導する選手の言うことを聞くこと』ということを教えてもらったというのもありますね」
こう語る大村コーチもまた、簡単には教えないコーチだったのである。
そこで筒香を教えるに当たって最初にやったのが、どうやってきて、何を求め、どうなりたいのか、ということを聞くことだった。
その上で一発か、三振かという打者ではなく「全打席でチームに貢献できるバッターになろう」と大村コーチが提案。そのためには技術的には逆方向にきちっと打てるようになって、確率も上げて打点も稼げる上で本塁打を打てる打者を目指す。今のスタイルへの挑戦が始まったわけだ。