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井上尚弥にも階級の壁は存在する?
気鋭トレーナー3人が語る強さの核。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2018/11/29 11:00
最近では、井上尚弥が苦戦する姿を想像することすら難しい。階級の壁も易々と突破してしまいそうだが。
古武術の達人とも共通するような。
井上の強さを独特の切り口で表現してくれたのは横浜光ジムの石井一太郎会長だ。会長職を務めながら、トレーナーとして選手の指導にもあたっている元日本ライト級チャンピオンである。
「井上選手の強さはうまく言葉にできないんですけど、古武術の先生と話をしていて、こういうことなのかな、と勝手に思ったことがあります」
あるとき、石井会長は古武術の師範と正座で向かい合った。脇にさやに収めた刀を置き、師範から「いつでもかかってきてください」と言われた。
石井会長が刀を抜いて素早く襲い掛かろうと動き出すと、既に先生の刀が喉元に突き付けられていた。もっと早く動こうと、刀を抜かずさやごと斬りつけようとしたら、先生の2本指が目につきつけられていた。
ならばと3回目は師範が動くまで待つことにした。すると師範はスッと目の前に膝立ちして「いまは動こうとしませんでしたね」と言ったという。ようは石井会長の動きはすべて見透かされていたのである。
相手の動きをすべて見透かす。
「井上選手もすべて見透かしているのかな、と思うんです。相手が攻め気のときは、スッとバックステップしたりブロックしたりして、相手の攻撃をあっという間に断ち切ってしまう。これで相手は攻撃できなくなる。
一方で、相手がひと呼吸置くとか、立ち位置を変えるとか、間合いを嫌うとか、そういう攻めてこない瞬間は絶対に見逃さないで攻撃するんですよ」
相手のわずかな隙を見逃さず、一瞬にしてとどめを刺す。その秘訣は古武術の師範によると「集中力」なのだそうだ。
「だからあの集中力が12ラウンド持つのかどうかは見てみたいですね。最近は早いラウンドで終わってますから。どうやったら集中力を身につけられるか? 先生に聞いてみたら座禅が一番いいと。これは僕にはちょっと無理だと思いました(笑)」