ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥にも階級の壁は存在する?
気鋭トレーナー3人が語る強さの核。
posted2018/11/29 11:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
“モンスター”井上尚弥の勢いが止まらない。
5月に初回KO勝利で3階級制覇を達成し、10月にスタートしたトーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ」(WBSS)バンタム級第1戦では、またしても初回KO勝ち。準決勝、決勝を残しているにもかかわらず、世界のメディアが「井上の優勝は間違いなし」とその圧倒的な実力に半ばあきれている。
いったい井上はどこまで強くなっていくのか、何級までクラスを上げていくのか―─。
今回は国内の敏腕トレーナー3人に、井上の実力とその可能性を聞いてみた。
JBスポーツジムの山田武士トレーナーは、ボクサーだけでなく、キックボクサーや総合格闘技の選手まで、幅広くボクシングの技術を教えている指導者だ。ちなみに同ジムのオーナーは人気ボクシング漫画『はじめの一歩』の作者、森川ジョージ氏。多くのボクシングファンが知るところである。
現実であれをやられたら漫画は……。
井上のすごさとは何か─―。率直な疑問を山田トレーナーにぶつけると、まずは少年漫画のトップランナーがため息をついた話を紹介してくれた。
「森川先生が言うんですよ。『一歩』はつねにリアルを追求している。漫画だからといって、現実離れしたパンチとかは描かない。ところが井上選手はその上をいってしまっている。現実であれをやられてしまったら、漫画で何を描いたらいいのか困る。そういう話をしてましたよ。それくらい井上選手は“ありえない”の連続なんです」
3階級上の選手とスパーリングをして、その選手の腕をパンチで折ってしまった。WBOスーパー・フライ級王座の初防衛戦では、ワルリト・パレナスがグローブで顔面をガードしているにもかかわらず、その上からパンチを叩き込んでダウンを奪ってしまった。10月のフアン・カルロス・パヤノ戦も、ほぼファーストコンタクトで70秒KO勝ちだから、これも“あり得ないエピソード”にカウントできるかもしれない。
「『一歩』であんな描写をしたら、たぶんバッシングされると思うんです。そんなのありえねーだろって。井上選手は漫画を超えちゃってるんですよ」