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長谷部誠の茶髪時代を覚えてる?
失点0にこだわり続ける職人の今。
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph byAFLO
posted2018/11/24 11:00
身長180cmでスリムな長谷部はブンデスリーガでも小柄な部類に入る。大きな選手をふっ飛ばしている光景も、珍しくない。
茶髪時代の長谷部を知っているか?
もちろん長谷部にセリエAでのプレー経験はない。キャリアのどこかでイタリア代表に影響を受けた様子もない。もう10年以上も門番を務めてきたかのような佇まいのリベロは、10年以上前に浦和レッズでプレーしていた頃、今とは明らかに異なるスタイルで戦っていた。
攻撃精神旺盛な茶髪のMFは、時に無謀とも取れるドリブルで敵陣に突っ込み、強引にでも得点を奪っていた。だが、風雪は人を変える……ということなのだろうか。
住み慣れた日本の地を離れ、ブンデスリーガの戦いに挑み、幾多の苦難を乗り越えてきた長谷部。ポジションもトップ下に留まらず、サイドバック、ボランチと「後ろ」の方に下がり、そしてニコ・コバチ前監督に守備職人としての適性を見出され、最後尾のリベロに辿り着いた。
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長く日本代表でキャプテンを務めたことも、精神の在り方を風雪に耐える門番のそれに変えることに、一役買ったのではないか。こうしてアズーリの伝統とは全く異なる潮流の先に、長谷部は独自の“カテナチオ”を体現するに至ったのだ。
ただ、いわゆる“長谷部版カテナチオ”が、本家と異なるのは、必ずしも1-0のスコアに美学を見出しているわけではない、ということである。
「そんなに引きずっていないですよ」
3-2のスコアで勝利したが、2失点したヨーロッパリーグのアポロン戦を、長谷部は次のように振り返っている。シャルケ戦の3日前、フランクフルトはキプロスに遠征していた。
「キプロスでの試合自体は、セットプレーと、最後はまぁレフェリーがプレゼントするようなPKだったので、そんなに引きずっていないですよ。
“失点”自体も、これまでの試合で失点はしていたんですけど、アポロン戦の時のように数失点はしていなかったので。まあリーグ全体を見渡してみてもね、まだ失点も少ないほうだし。でも今日(シャルケ戦)みたいにゼロで抑えると、より気持ちいいは気持ちいいですけどね」
どれだけ理想を高く持とうとも、全ての試合で失点をゼロに抑えることは、現実的には難しい。重要なことは、チームが「トップ・マンシャフト」であることを示し、1つ1つの試合で勝ち点を積み重ねていくことなのだ。
長いシーズンを戦っていく上では、どうしても仕方のない失点は存在する。大敗を招くものでなければ、割り切って次の試合に向かうことも必要だ。そんな大らかさも、“長谷部版カテナチオ”は含んでいる。