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薬物事件で開催危機の岩手競馬。
「復興の窓口」を潰してはならない。

posted2018/11/17 11:00

 
薬物事件で開催危機の岩手競馬。「復興の窓口」を潰してはならない。<Number Web> photograph by Oaks Inoue

南部競馬の代名詞的な存在である南部杯。

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井上オークス

井上オークスOaks Inoue

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Oaks Inoue

 岩手県は、盛岡競馬場と水沢競馬場、2つの競馬場を持っている。ちょうどこの時期は、冬の水沢開催の真っ最中。11月18日には目玉レースの“ダービーグランプリ”が行われ、昭和レトロな水沢競馬場は、大いに盛り上がるはずだったのだが……。

 岩手県競馬組合は、11月10~12日及び17~19日の6日間、予定していたレースの開催を中止した。

 中止理由は悪天候でも災害でもなく、「公正な競馬を実施できる体制」を構築するため。競走馬から「ボルデノン」なる禁止薬物が相次いで検出されるという、前代未聞の事件が勃発してしまったのである。

勝利のために投与するとは考えづらい。

 ボルデノンは、アナボリックステロイド(筋肉増強剤)の一種。日本の競馬界では禁止薬物に指定されており、レース後の採尿検査で検出された場合、その馬は失格となる。岩手競馬ではボルデノン陽性馬は昨年まで一度も発生していなかったのだが、今年7月以降、立て続けに4頭もの陽性馬が発生した。

1.スターズレディ(水沢・三野宮通厩舎)…7月29日、盛岡で2位入線後に検出
2.ウバトーバン(水沢・高橋純厩舎)…9月10日、水沢で2位入線後に検出
3.ヒナクイックワン(水沢・高橋純厩舎)…10月28日、盛岡で1位入線後に検出
4.ワンサイドストーリ(水沢・高橋純厩舎)…11月6日に採取された尿から検出

 この薬物事件は、様々なメディアで報じられた。「競走馬に筋肉増強剤」「ドーピング」「競馬法違反」といった報道を見聞きして、「馬を速く走らせて利益を得るために、禁止薬物を与えたんだな」と受け取る人も少なからずいたようだ。

 だが実は、調教師や厩務員等の関係者が、目先の勝利に目がくらんで投与した可能性は極めて薄い。それはなぜか。

 地方競馬の場合、1、2着馬には採尿検査が義務づけられている。仮に筋肉増強剤の効果で上位入線できたとしても、競走馬理化学研究所による検査結果が出れば失格となり、賞金も没収されてしまう。

 しかも禁止薬物を使用した者は、競馬法違反で罰せられる。たとえ原因が不明であっても、調教師は管理責任を問われ、競馬主催者から重いペナルティ(賞典停止など)を科せられる。その馬にたずさわる人にまったくメリットはなく、むしろ多大なデメリットをこうむるというわけだ。

 また、ボルデノンは体内に残存する期間が比較的長く、即効性に乏しいことからも、競走能力を向上させるために投与されたとは考えづらい。

【次ページ】 侵入者の存在を想定して、カメラを設置。

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