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成熟し続けるフロンターレが得た、
負けて連覇したという稀有な経験。
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/12 17:30
シルバーコレクターぶりを思い出せば、中村憲剛(左)と小林悠は負けての連覇にも感慨深いものがあるだろう。
遠慮がちな連覇の先に。
その後の上昇ぶりも見事で、第28節終了時に首位に立つと、盤石の戦い方で勝ち点を積み重なっていった。それだけに、最後は勝って連覇したかったと思うのは当然だろう。ただ、連覇の価値が色褪せることはない。
阿部浩之は胸を張った。
「今日の負けは悔しいし、もっともっと詰めていかないとダメな部分がある。でも今日で32試合目という長丁場で見たら、今までやってきたことは価値がある。少しずつ積み重ねてきた結果が、こうなった。今日負けたとしても、残り2つのうち、1つ勝てれば優勝できた。それぐらい余裕が出せたのも自分達。そこは良かったと思います」
試合後の監督会見を終えて、席を立って退出する鬼木監督に対して、自分も含めた報道陣十数人から拍手が起きた。
ただアウェイの会見場だったこと、そして負けた試合を振り返った後だっただけに、盛大な拍手を贈るのがはばかられる雰囲気があったのか、J1史上5チーム目という連覇を遂げた監督に対するものとしては、やや遠慮がちで小さな拍手だったようにも聞こえた。
負けて優勝したことがある。
ちなみに、負けてリーグ優勝が決まったのは、1996年の鹿島アントラーズに次いで川崎フロンターレが2例目だという。そのときに鹿島の選手として在籍していたのが鬼木達である。
――負けて優勝したことがある。
そんな稀有な経験を、監督と選手の両方で味わっていることも、さらなる糧になるのかもしれない。シルバーコレクターとして泣いたチームを成熟させた若き指揮官は、報道陣からの拍手に、少し照れた表情を浮かべて「ありがとうございます」とはにかんで、会見場を後にしていった。