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錦織圭の工夫とフェデラー撃破。
“勝ちビビリ”は微塵もなかった。
posted2018/11/12 12:40
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Getty Images
お互い調子は良くなかったが、ロジャー・フェデラーのミスに助けられた、勝つには勝ったが――そんなふうに総括してしまうと、この勝利の価値を見誤る。
11月11日のATPツアー・ファイナル初戦。2セットの試合で、フェデラーのアンフォーストエラーは34本に達し、錦織圭のウィナーはわずか6本だった。これだけ見れば、フェデラーのエラーで勝たせてもらった試合だ。ただ、テニスというゲームは、トッププレーヤー同士の1対1の戦いは、もう少し複雑だ。
錦織の勝因はいくつかある。まず、ピンチの芽を摘んだこと。第1セットはサービスゲームで0-30が2度あった。1-2からのゲームと、5-6からのゲームだった。特に後者はあと1ポイント失えば相手のセットポイントという窮地だった。
フェデラーは「不運にも、先行しながら追いつかれてしまった。それが試合のキーになった」と逸機を悔やむ。相手のミスに助けられたところもあったが、重圧がかかって自分から崩れてもおかしくない場面で、錦織はよく踏みとどまった。
セカンドサーブも効果的。
フェデラーにはこれまで2勝7敗、この1カ月強の間にも上海、パリと連敗していただけに、なんとかしなくては、という工夫が見られた。それが顕著に見られたのがサービスゲームだ。
ファーストサーブ時のポイント獲得率はフェデラーと並ぶ78%をマークした。セカンドサーブ時にはフェデラーの54%を大きく上回る63%のポイント獲得率だった。
デュースサイドではセンターへの配球を増やし、第1セットのセットポイントなど、ここという場面で得意のワイドに切れるサーブを使った。
アドサイドでは、サイドライン際に深く打ち込むセカンドサーブが効果的だった。これまではスピンをかけてサービスボックスの真ん中に入れていく安全策が多かっただけに、フェデラーの戸惑いが見てとれた。
錦織は「いくつか(戦術を)変えてみた」というだけで具体的に明かすことはなかったが、こうした1つひとつの工夫が実を結んだのは間違いない。