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女子レスリングが急激にV字復活!
要因は選手とコーチの信頼関係。
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byKoji Fuse
posted2018/11/03 17:00
世界選手権で金メダルを獲得した川井梨紗子(左)と川井友香子。
惨敗の理由は「練習不足」。
感謝している選手は向田だけではない。アジア大会後、志土地コーチは選手から徹底的にヒアリングを行い、惨敗の理由が「練習不足にある」という答えを導き出した。
一連の騒動が気づかぬうちに無言のプレッシャーとなり、それがアジア大会では積極性に欠ける守りのレスリングとなって現れてしまったというのだ。指導陣にも「たぶん勝てるだろう」という甘い考えがあったことは否定できない。
抜本的な解決策は練習量を増やすしかなかった。そのせいで「腰が痛い」と訴える選手も出た。
以下は、ある指導者とその選手との会話である。
「腰が痛いなら、いい接骨院を紹介しよう」
「世界選手権のために、1日たりとも練習は休めません」
世界選手権にかける、代表選手の熱い思い。あの大騒動の最中、選手たちはみな「ひょっとしたら負けるんじゃないか」という不安を抱いた。平成という時代が終わろうかという年になって、いきなり涙と血と汗がよく似合うスポ根を地で行くカリスマ性の高い指導者がいきなりいなくなってしまったのだから無理もない。
何気ない会話から信頼関係が。
そしてその不安は、実際にアジア大会で現実のものとなってしまった。
巻き返しを計るために練習に熱が入るのは当然だったが、オーバーワークになってケガがさらに悪化してしまったら元も子もない。前述した腰痛の選手も、最終的には日本代表チームに同行した中嶋耕平ドクターに症状をしっかりと把握してもらったうえで、ハンガリー行きを許可されたということだった。
まずは何気ない会話から信頼関係が生まれる。アジア大会と世界選手権を現場で取材した筆者から見ても、指導陣と選手の間の距離は縮まっていたように映った。
以下、西口強化本部長の証言である。
「アジア大会の時にはコーチに気を使うという部分で、選手の方からしてもやりにくかったところもあったのでしょう。ただ、レスリング協会の方針は『暴力と暴言は根絶させる』。我々はスポーツマンシップに則って行動するだけなので、距離が縮まれば気を使う必要は何もなかった」