終われない男の対談集BACK NUMBER
46歳でも進化するカミカゼ葛西紀明。
鏑木毅も驚いた100%の「落ちろ!」。
text by
礒村真介Isomura Shinsuke
photograph byShin Hamada
posted2018/11/06 08:00
対談後、ランナーも多い皇居周辺で鏑木と葛西はなおもアスリート談義を続けた。
「氷の上で立ち幅跳びをする」感覚。
葛西 衰えますけど……、じつは脚力を含めたパワーはそこまで必要ないんです。そもそも踏み切りではそんなに力をいれて斜面を蹴ってないんですよ。もちろんある程度の力は必要なんですけど、その力がうまく斜面に伝わらないと飛べない。
「氷の上で立ち幅跳びをする」というのが踏み切りの瞬間の力の入れ方の感覚に近いのですが、時速90kmのスピードをだしながら踏み切れるか。少し想像してみてください。タイミングと、飛び出しの方向と、パワー。それが1箇所にポンッとハマれば飛んでいくんです。反対にいくら鍛えて強いパワーがあっても、タイミングよくスムーズに踏み切れないと水の泡になってしまう。
鏑木 僕の場合、昔はパッと脚を動かせていたのが、神経伝達のスピードがやや落ちているのか、下りのパートで岩や木の根を避けるときに足の置き場を間違えて、足首を捻ってしまうということがあるんです。葛西さんは「今ここで踏み切ろう」と思ったときに、実際の動きがコンマ何秒か遅れてしまったりということはありますか。
葛西 いや、それが無いんですよね。ただ、踏み切りのタイミングが「完璧に合った!」ということもほとんどありません。年間200本ジャンプを飛んだとして、これだと思うのは1、2本あるかないか。タイミングが完璧にあえば、今でもジャンプ台のレコードが出たりします。それは若いころも今も同じなんですよ。だから、反射神経も衰えは感じていませんね。
鏑木 ちなみに、これまで試合では何本くらい完璧なジャンプができているのですか?
葛西 10歳で競技を始めて35年以上になりますが、レースのジャンプで「来たっ!」と思えたのは今まで5本しかありません。例えば、1992年のフライング選手権で優勝したときや、1994年に五輪前の札幌で135.0mのレコードを出したときがそうです。ただし、いずれも1本だけで2本揃えられたことはないですね。
最高のジャンプができたときは、踏み切った瞬間に頭の中が真っ白になります。何も考えられないんです。逆に失敗したときはすぐに「やっちゃった!」とわかるので、頭の中で「いい風吹いてくれないかな」って考えたり(笑)。