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46歳でも進化するカミカゼ葛西紀明。
鏑木毅も驚いた100%の「落ちろ!」。

posted2018/11/06 08:00

 
46歳でも進化するカミカゼ葛西紀明。鏑木毅も驚いた100%の「落ちろ!」。<Number Web> photograph by Shin Hamada

対談後、ランナーも多い皇居周辺で鏑木と葛西はなおもアスリート談義を続けた。

text by

礒村真介

礒村真介Isomura Shinsuke

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photograph by

Shin Hamada

鏑木 先日、50歳になりました。9年前の40歳のときにモンブランのまわりを1周する「UTMB」というレースで3位になったのですが、2012年を最後にしばらくUTMBから遠ざかっていました。

 ですが、50歳になった来年の夏にもう一回チャレンジしようと決め、今は身体や心を鍛えなおしている段階です。ですから今日は葛西さんにトレーニングのこと、メンタルのことなど、聞きたいことが本当にたくさんあります。

 日本人のみならず、いやむしろ本場ヨーロッパのジャンパーたちが率先して、「レジェンド」と呼ぶ男、それが葛西紀明だ。史上最多8大会の冬季オリンピックに出場し、3つのメダルを獲得。46歳という年齢にしてなお世界のトップレベルで渡り合い、常識を覆す「カミカゼジャンパー」だ。

 一方、トレイルランニングの世界もヨーロッパ勢のレベルが高い。主要なレースのトップ10を欧州の選手がほぼ独占するなか、40歳に近い年齢から世界の舞台に出て、何度も表彰台に登った鏑木毅もまた、その世界では「レジェンド」「神」などと呼ばれてきた。

鏑木 僕は陸上からトレイルランニングへ、しかもトレイルのなかでも短距離、長距離、超長距離と主戦場を移してきました。ある意味では競技を変えてきたと言ってもいいかもしれません。

 ただ、葛西さんはずっとスキージャンプ一筋。同じ競技を続けて、次の北京で9回目の冬季五輪を目指すことになると思うんですが、そのモチベーションはどうやって維持されているんですか。

葛西 うーん、一番は好きだということですね。好きと言うより、愛しています。あとはこれだけ飛んできていても、まだまだ「難しい」っていうのが続けられる理由ですね。

鏑木 試合で飛んでいる時間に感じる高揚感はスゴイのかな、と想像する一方、その一瞬に向けてコツコツと準備をしていく過程はとても地味だと思います。その地味な練習を含めて「愛してる」んですか?

葛西 そうですね。練習はツラいんですけど、面白い。自分をイジめるのは好きですね。どれくらい強くなれるのかって。練習していないと不安になります。

鏑木 僕もランニング・ドランカーのようなところがあって、走って疲れた状態でいないとなんだか不安になるんです。似たようなところがあるのかも (笑)。40代になってからは年々衰えを感じながらも、なんとかモチベーションに折り合いをつけてやっています。スキージャンプは、踏み切りの瞬間が勝負かなと思っていますが、脚力に衰えを感じますか? それとも経験でカバーできるものなのか。

【次ページ】 「氷の上で立ち幅跳びをする」感覚。

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