猛牛のささやきBACK NUMBER
小谷野栄一は引退表明後も全力で。
松坂世代とオリックスに送る感謝。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2018/10/04 07:00
引退会見で花束を手にする小谷野栄一。パ・リーグらしい渋さを感じさせるクラッチヒッターだった。
「こやじい」なんて呼ばれたり。
普通なら自分のことだけで精一杯になってもおかしくないが、小谷野は非常に面倒見のいい兄貴分だった。「教える=押し付ける、になってしまうから」と、自分からアドバイスをすることはないが、誰かが相談すると、親身になって、その選手の目線でわかりやすく伝える。
実績豊富な37歳のベテランだが、歳の近い選手から1年目の若手まで、誰にとっても近づきやすく、つい頼ってしまう存在だ。
その親しみやすさは報道陣に対しても変わらない。質問を投げかけるといつも丁寧に答えてくれた。
「そこはオリックスに来て、みんなが僕を変えてくれた」と小谷野は言う。
「以前はくそ生意気だったし、自分のことで精一杯で、自己中だったと思う。それでも日本ハムで稲葉(篤紀)さんや金子(誠)さん、飯山(裕志)さんといったいい先輩たちに徐々に変えてもらって、同級生の(森本)稀哲が僕の強がりな性格をいい方向に引き出してくれた。その上でオリックスに来て、成長させてもらえた。奥さんにも、『変わったね。変えてもらったね』と言われるぐらい(笑)。
以前はいじられるってことがまずなかったけど、こっちに来たらいじられました。ツカ(塚原頌平)には『こやじい』なんて呼ばれますからね。昔だったらボッコボコにしてたでしょうね、アハハハ。最高です。
オリックスは本当に人間的によくて、魅力的な子が多い。本当に出会えてよかったなと思います。そういう選手たちのプレーが、結果にも結びついて、世間の人がもっと彼らの人間力に気づいてくださればいいなと思いますね」
松坂はこんなもんじゃねーからな。
今年は杉内俊哉、後藤武敏、村田修一といった松坂世代の選手たちの引退が続いたが、小谷野も松坂世代の1人である。
引退会見では、「松坂世代と呼ばれることに誇りを持っている」と語った。
小谷野は松坂大輔と同じ東京都江東区出身で、小学生時代はライバルチームで対戦し、江戸川南リトル、シニアではチームメイトだった。
一番長い間、松坂を追い続けてきた小谷野は、松坂がメジャーから日本球界に復帰して以降、再戦を心待ちにしていた。松坂がソフトバンクにいた昨年4月、オリックス戦で松坂の登板が予定されていたが、回避されてしまった。その時、残念がりながら、小谷野はこう訴えていた。
「今、みんなに伝えたいのは、『松坂はこんなもんじゃねーからな』ということ。僕ら同学年はみんな、同じ思いだと思います」