猛牛のささやきBACK NUMBER
小谷野栄一は引退表明後も全力で。
松坂世代とオリックスに送る感謝。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2018/10/04 07:00
引退会見で花束を手にする小谷野栄一。パ・リーグらしい渋さを感じさせるクラッチヒッターだった。
マツの気遣いはさすがだなと。
その言葉を、今年、松坂は証明してみせた。そして5月30日の交流戦で、小谷野は松坂との13年ぶりの再戦を果たす。無安打に終わったが、「純粋に楽しかった」と満足そうだった。
小谷野が松坂に電話で引退を伝えると、笑いながら「(オレから)ヒット打ってないじゃん」と言われたという。
「そう言われてまだ『くそ!』と思えた(笑)。でも体が動かないからなーと。あいつなりにそういう返し方をしてくれて、さすが、やっぱり超一流の選手は、ユーモアがあって、心を和ませてくれるんだなと、気遣いがさすがだなと思いましたね。マツがそう言ってくれて、なんかスッキリしました」
今、小谷野の言葉には、周囲の人々へのリスペクトと感謝があふれている。
引退試合後も練習に励む日々。
9月28日には、ウエスタン・リーグの最終戦が舞洲で行われ、9回裏、小谷野は代打で打席に立った。中日のマウンドには日本ハム時代の同僚、谷元圭介が上がり、1球目は豪快な空振り、2球目をサードゴロに打ち取られた。試合後はファームの選手たちに胴上げされ、涙があふれた。一度目の引退試合だ。
しかし次の日も、その次の日も、小谷野は10月5日の今季最終戦に備えて、変わらず舞洲で練習するという。
「もう一度体を作っておこうかなと。最後まで選手をやらせてもらえるんだったら、1日でも(練習しないと)もったいないから」
選手としてグラウンドに立つ限りは、できうる限りの準備をして、最後まで全力を尽くす。16年間見せてきた姿を、小谷野らしく最後の日まで貫く。