“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
1クラブで長く背番号10を着ける男。
宮澤裕樹は札幌と北海道の顔だ。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/09/23 09:00
他クラブのナンバー10と比べると知名度は高くないかもしれない。しかし宮澤裕樹には長年10番を背負って築いたものがある。
4年目からボランチが主戦場に。
だがプロ入りして以降、ストライカーとしての印象は徐々に薄まった。3年目まではFWで起用されることもあったが、翌年の2011年からはボランチに定着した。
この頃から「北海の爆撃機」の名残はなくなり、むしろ献身的な守備と中盤でのボールキープ、長短のパスで攻撃を構築する黒子役へと変化した。エースとしての“10番”から、遠くなっていく自分。宮澤の中に大きな葛藤が生まれたのも無理はない。
「正直、ボランチにコンバートされた時、『俺はFWだ』という考えもありました。もちろんチームのためにボランチとして全力を尽くすことは意識していた。でもその期間が続いて『俺って器用貧乏なのかな。それは10番としてどうなんだろう』と思う時期もありました」
札幌への思いは人一倍あるから。
しかし自らの“10番像”を確立する出来事があった。2016年、キャプテンに就任した時のことだ。
「自分がキャプテンになって、チームの中心として責任感を持ってやらないといけない。そう思うようになってから、迷いがなくなりました。自分なりの10番の形というか、泥臭くプレーすること、“俺は縁の下の力持ちとして機能する10番なんだ”という自覚でやる方が良さが生きるし、ギャップに苦しまなくなった。
キャプテン就任は解決方法を見つける大きなきっかけでした。立場が変わったことで実感できたし、行動に移すことで、『俺はこれでいいんだ』と思えるようになった」
このシーズン、チームはJ1復帰を達成。宮澤自身も「縁の下の力持ち」としてキャリア2度目のJ1昇格に貢献したことで、自分の立ち位置を見出した。
2017年もボランチとしてJ1残留に貢献。そして今季はACL出場圏内にも手が届く5位(第26節現在)に躍進する札幌で、相変わらずの安定感を発揮している。
「試合をこなすほど“俺はそういうの(華やかさ)は求められていないんだ”と思いますし、葛藤しても意味がないなと。俺自身、そんな派手なプレーをするタイプじゃないし、世間が考えるような10番タイプではないですが、ずっと札幌でやって来て、札幌への想いだったり、強くしたいという想いは人一倍ある。そういう意味で10番を背負っているし、想いを伝えられる10番になりたいと思っています」