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球数問題は高校どころか少年野球も。
投げすぎは「将来性の先食い」に。 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byHideki Sugiyama

posted2018/08/31 07:00

球数問題は高校どころか少年野球も。投げすぎは「将来性の先食い」に。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

金足農フィーバーを呼んだ吉田輝星のピッチング。今後のキャリアに影響が出ないことを祈るばかりだ。

少年野球も多くがトーナメント。

 今の少年硬式野球では高校、大学、社会人、プロと野球を続けていく子供を対象にしているチームが多い。進学塾に対して「野球塾」と言われることもある。

 中でも甲子園は、ほぼすべての野球少年の夢になっている。だから多くの少年野球リーグは、高校と同じ経験を積ませるために「甲子園、高校野球のひな型」になっている。

 少年野球大会の多くは甲子園同様、トーナメント制だ。そこではエースが連投し、勝ち上がる光景が普通になっている。少年野球の指導者の多くはエースを中心にチームを作り、連日の投げ込みで制球力や変化球のキレを身に着けさせようとするのだ。

 その状況を受けて、日本中学硬式野球協議会は2015年に「中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン」を設けた。試合での登板は1日7イニング以内、連続する2日間で10イニング以内と定めたのである。

 これによって一定の歯止めはかかっているが、球数制限ではない。そのため投球数がかさむ投手もいる。なにより、投球練習や練習試合での投げすぎは規制していない。

 それもあって少年野球指導者は、高校野球の指導者、関係者の前でいいところを見せようと、投手に無理をさせるケースがでてくる。

 何より投手自身も「甲子園→プロ」という夢があるから頑張ってしまう。

 その結果、高校野球に進んだ時点で「古傷」を持つ投手が出てくるし、すでにひじの手術をしている子供も珍しくない。

 それでも高校に進学して活躍できているのなら、まだ報われたと言える。だが中学校で故障して投手、野球を断念するケースも数多くあるのが実情だ。

小学校で光った投手が中学で……。

 私は今、幼稚園児や小学校低学年の「野球普及教室」をたくさん取材している。そんな幼児のレベルでも、ボールを投げたり、バットで打ち返すのが上手な子が必ず出てくる。持って生まれた才能というのは抗いがたいものだと思う。

 ある少年野球関係者が、このようにため息をついていたのが印象的だった。

「小学校時代に『この子は!』と思うほどの目立つ投手は、中学に入るといつの間にかいなくなるんです。中学で目立った子供も、高校で活躍する子は本当に少ない。早熟な子は、少年野球によってつぶされてしまう」

 ここでも高校野球と同じ「能力、将来性の先食い」が起こっているのだ。

【次ページ】 「勝利至上主義」の行き過ぎが。

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