プレミアリーグの時間BACK NUMBER
唯一無二の人、アブラモビッチは
愛するチェルシーを売却するのか?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2018/09/01 11:00
ジョン・テリー(左)とタイトル獲得を喜び合った頃のアブラモビッチオーナー。名物オーナーがチェルシーを去る日が来るのだろうか。
英国人気質を持つアブラモビッチ。
アブラモビッチのオーナー就任から1、2年であれば話は別だ。当時のチェルシーは、“オイルマネー”の注入で半世紀ぶりのリーグ優勝こそ果たしたが、まだまだ成り上がり途上。その段階でロシア人オーナーが手を引いていれば、真の強化は難しかった。
しかしアブラモビッチ体制16年目となるチェルシーは、専用の練習施設からタイトル数まで、ビッグクラブとしてのステータスを手にしている。つまり次なるオーナーは新スタジアムの建設費用も計算に入れたうえで、アブラモビッチを凌ぐ資産または資金調達力を持つ者でしかあり得ないわけだ。
ただもし巨大なオーナーが去れば、その淋しさは特大である。この国で有名なチャント風に讃えるなら「アブラモビッチはただ1人!」というタイプだからだ。チェルシー買収当初こそクラブをマネー・ロンダリングに利用していると、やっかみ半分の非難も受けた。
クラブも得体の知れないロシア人に買われ、否定的ニュアンスで「チェルスキ」と呼ばれもした。だが今や「チェルシーのオーナー」として受け入れられるようになった背景には、ファン気質が根底にある伝統的な英国人に「最も近い外国人オーナー」という在り方が、次第に理解されていったからだとも言える。
シェフチェンコ、トーレスの獲得。
アブラモビッチは投資ではなく、趣味的な感覚のオーナーなのだ。「おらがクラブ」に欲しい選手がいれば、採算も度外視してチームに買い与えた。移籍金44億円弱のシェフチェンコや、73億円弱のフェルナンド・トーレスなどは補強としては大失敗だったものの、獲得当初はファンもメディアも大物獲得に沸いたものだ。
チームのパフォーマンスや成績に少しでも陰りが見えれば、パブでビール片手に好き勝手な意見を交わすファンのごとく、大胆な監督交代も実施した。さすがにチェルシーで1度目の政権だったジョゼ・モウリーニョを任期4年目で切った時は、その冷酷さと堪え性のなさをサポーターから批判された。かく言う筆者も反感を覚えた1人だ。
しかし、その後も獲得タイトル数が増えている事実を考えれば、年中行事のような監督交代が功を奏してきたと言える。