プレミアリーグの時間BACK NUMBER
唯一無二の人、アブラモビッチは
愛するチェルシーを売却するのか?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2018/09/01 11:00
ジョン・テリー(左)とタイトル獲得を喜び合った頃のアブラモビッチオーナー。名物オーナーがチェルシーを去る日が来るのだろうか。
火のない所には煙は立たない。
国内外でタイトルを総なめにしたチェルシーのここ15年間は、アブラモビッチがオーナーに就任して以来の年月に重なる。その中で今回、クラブ側は「パトロン」であるアブラモビッチのの撤退説を否定。同じ『レイン・グループ』が中国系投資機関への所有権13%売却に絡んだマンチェスター・シティの事例と同様に、資金源を拡大すべく所有権の一部売却を画策しているにすぎないとしている。
本稿執筆時点では『レイン・グループ』側からも公式声明はなく、アブラモビッチのスポークスマンからも「ノー・コメント」しか聞こえてこない。
ただし、火のない所に煙は立たない。アブラモビッチがチェルシーを手放す可能性は数カ月前から囁かれていた。もっと正確に言えば英国南西部ソールズベリーで、元二重スパイのロシア人父娘を標的とした毒ガス暗殺未遂事件が起こった今年3月からである。
ロシア政府が事件への関与を否定する一方で、テレーザ・メイ首相や英国政府はロシア関与の可能性を指摘しており、両国間の関係が悪化した。そんな中で見せしめとしか思えない在英ロシア人富豪に対する締め出しを実施した。遅々として進まない投資家ビザ更新に業を煮やして申請を取り下げたアブラモビッチも、その対象となった。
旅行者と同じ境遇でプレミア開幕。
その後、イスラエルの市民権を取得したアブラモビッチは、ビザ不要の入国で最長6カ月間の滞在こそ認められるが、就労は許されない状態。換言すれば、日本人旅行者と同じ境遇でプレミアの今季開幕を迎えているのだ。
アブラモビッチが過去15年間にチェルシーに投じた資金総額は、約1500億円近くにのぼる。今や世界に誇るエンターテイメント・ビジネスと化したクラブに、それだけの金額を投じても投資家としての滞在が歓迎されない。そんな国であれば、腹立たしさも相まって、クラブを売却して手を引こうと考えても不思議ではない。
総工費の見積もりが当初の倍に膨らんでいる新スタジアム建設が、オーナーの一声で棚上げされたのも、ビザ更新断念を受けての判断だった。
それでは、チェルシーのファンが今年の「リッチリスト」で13位(資産総額、約1兆3500億円)にランクインしている後ろ盾を失う可能性に不安を覚えているかというと、実はそれほどでもない。