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桐生、山縣も驚いた慶應大の1年生。
走り幅跳び・酒井由吾の「8m31」。
text by
神津伸子Nobuko Kozu
photograph byNobuko Kozu
posted2018/06/21 16:30
走り幅跳びで日本記録更新の期待もかかる酒井由吾。まだ慶應大学の1年生、将来が楽しみだ。
「僕、こういう勝ち方が多いんです」
インカレ後も、酒井は6月初旬に岐阜で開催された第18回アジアジュニア選手権大会でも、アジアの強豪をおさえて7m61で優勝している。勢いはとどまるところを知らない。
では、スター候補は突然生まれたのだろうか。
実はそうではない。酒井は中学3年生で中学の全国チャンピオンとなり、高校3年生の時にもインターハイで7m68の記録を出して優勝している。
「中高の頃から、由吾は橋岡君といつも競ってきたんです。初インカレで勝てて嬉しい。でも、まさか優勝出来るとは」と、応援に来ていた父親の関也さんも喜びを隠さない。
酒井本人に自身の強みを聞くと「メンタルです」と、きっぱり。とにかく明るく、笑顔が実に良く似合う好青年だ。
「僕、こういう勝ち方が今までも多いんです。わずかの差で競っている時に『よし! やるぞ』と言う気持ちになり、跳べるんです」
なんとも頼もしい。これだけの記録を残していれば、多くの陸上名門大学から声がかかったはずだが、なぜ慶應大を選んだのかと聞いてみた。
「強い人がエライのではない、それぞれの良いところを認め合って活動しようという慶應の雰囲気が好きだったので」
受験前に、日吉のグラウンドで練習に参加して、雰囲気を肌で感じたという。
日本記録が更新されれば1992年以来。
実は酒井は関東インカレで、走り幅跳びだけでなく、4×100リレーのアンカーもつとめている。残念ながら結果は予選落ちだったが、1年生ながらアンカーを任せられていることからも実力がわかる。大学OBによると「高2の時に100mで10.75、200で21.73を出していて、かなりの走力がある。今後がとても期待できますね」と。1人で多種目をこなす和製カール・ルイスの誕生も夢ではない。
今週末には、山口で開催される日本選手権に出場する。
桐生、山縣、飯塚、ケンブリッジ、それに関西学院の多田修平などが一堂に顔を合わせる100mが注目を集めている。
その先輩たちと同じフィールドで、酒井はライバルの橋岡とともに全日本レベルの大会に挑む。
「ぜひ、(慶應OBの)山縣さんと揃って2020年の東京五輪に出場したいと思います!!」
走り幅跳びの日本記録である8m25は、日大の森長正樹が1992年に出したもので、実に25年以上更新されていない。
この記録を塗り替える可能性がある若きヒーローの誕生に心が躍る。