スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
大谷翔平の世界と大谷以外の世界。
彼が戦う強者たちを検証する。
posted2018/06/09 07:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
AFLO
大谷翔平のことを思うと、映画のロングショットが頭に浮かぶ。
いわゆる「長玉」(超望遠レンズ)を使って大谷だけに焦点を合わせれば、周囲の風景はぼんやりとかすんで像を結ばない。だが、パンフォーカスのレンズを使えば、大谷はもちろんのこと、彼以外の風景や人物も同じフレームにはっきりと映し出される。
私は、後者のレンズを好む。大谷翔平に素晴らしい才能が備わっていることは否定しないが、大リーグには彼以外にも傑出した才能が数多い。大谷と近い世代だけに絞っても、その数はかなりのものだ。すでにビッグネームとなっている年長の才能までふくめると、数はもっと増える。彼らの存在に眼をつぶるのはあまりにも不条理ではないか。
現在の大谷は、打者としては規定打席数(チームの試合数×3.1)に、投手としては規定投球回数(チームの試合数×1.0)に到達していない。先発登板の前後に休みをはさむ二刀流独特の起用法では、どうしても避けがたい事態だ。
6月5日現在、投手・大谷は8試合に先発し、45回3分の1を投げて4勝1敗、防御率3.18の成績を残している。被安打は32、奪三振は57、与四球は17。
同世代の投手と比べて奪三振率が高い。
これを同世代の新鋭投手たちと比べると、どうなるか。
'94年2月生まれのルイス・セベリーノ(ヤンキース)は、13試合に先発し、86回を投げて9勝1敗、防御率2.20と好調だ。奪三振は102。
'93年6月生まれのアーロン・ノーラ(フィリーズ)の場合は、12試合に先発し、78回3分の1を投げて7勝2敗、防御率2.18だ。奪三振は74。
アスレティックスで売り出し中のダニエル・メンデン(93年2月生まれ)は、74回3分の1を投げて、6勝4敗、2.91、48奪三振だ。ブレーヴスのショーン・ニューカム(93年6月生まれ)は62回3分の2を投げて、6勝1敗、2.73、64奪三振。
彼らはいずれも投手専門だが、防御率や勝ち星では大谷を上回っている。ただ、奪三振率はこのなかで大谷がトップだ。セベリーノの10.67個(9回あたり)に比べても、大谷の11.32個という数字は光っている。