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槙野智章が持つ日本一の“声”。
大音量でも、否定の言葉は使わない。 

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塚越始

塚越始Hajime Tsukakoshi

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posted2018/06/06 11:30

槙野智章が持つ日本一の“声”。大音量でも、否定の言葉は使わない。<Number Web> photograph by Getty Images

試合中に叫んでいる印象が強い槙野智章だが、その言葉の内容に怒りや叱責は含まれていない。いつだってポジティブなのだ。

誰よりも声が大きいが、聞いていて心地良い。

 そのような改善や進化を遂げ、今回、W杯メンバーの23人に選ばれた。一方、彼がサッカー選手として常に変わらずに「武器」にしてきたことがある。それが“声”だ。

 浦和レッズが以前実施していた鹿児島指宿キャンプで、ピッチ脇の芝生が張られた斜面に座り、練習試合を取材していたときだった。目の前には3-4-2-1の左ストッパーを務める槙野智章がいた。

 指示を出す槙野の大きな声が、自然と耳に届く。

 それはなぜかとても心地が良くて、ふと気付いた。彼は誰よりも大きな声を出しているが、否定の言葉は一切発していないのだ。そうしながら、味方の好プレーを気持ちいいぐらいに褒めたたえていた。

「いいぞ、もう少しラインを上げてみようか!」

「よし。そこもっと強く当たりに行こう!」

「いけるぞ、苦しいけれど、ここで踏ん張ろう」

 それ以降、練習試合や紅白戦などで、槙野の声に注意を向けるようになった。やはり槙野が味方に文句を言う=ネガティブな声は聞いたことがなかった。紅白戦の合間に失点シーンを確認するときも、決して否定したり、責めたりはしない。どうすれば防げたかを一緒に話し合う。

叱責が当たり前のサッカーの世界で。

「いやいや、僕だって、厳しいことは言いますよ」

 槙野はそう言う。

 最近槙野から指摘を受けたというのが、浦和の新人でありU-21日本代表にも選ばれた橋岡大樹。ただ、彼もこのように言っていた。

「うーん、(言われて)嫌な気持ちなんてしないです。槙野さんから気持ちが萎えるような声は聞いたことがない。(厳しいことを言われたそうだが?)『守備はいい。あとは攻撃だ』という、その通りだと思うアドバイスでした。試合中も後ろから本当にいい声がかかるので、励まされて、気持ちよくプレーさせてくれます」

 なんでボールへ行かないんだ! そこマーク外すなよ! いいから下がれ!……そういった声がある意味、サッカーのディフェンスでは当たり前だと思っていた身からすると、味方を自然と奮い立たせる槙野の声に、心底驚かされた。そして一緒にプレーしたら、きっと楽しいのだろうなと感じた。

【次ページ】 浦和左サイドは代表選手を輩出してきた。

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