サッカー日本代表 激闘日誌BACK NUMBER
ジャーナリスト佐藤俊が目撃した激闘の記憶
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJMPA
posted2018/06/15 10:00
後半投入されたFWシチェフをマークする宮本。特注のフェイスガードで「バットマン」と呼ばれた。
トルシエの要求と戦術のアレンジ。
ロシアはベルギー以上に強い。戦術だからといって闇雲にラインを高く上げるのではなく、場合によっては引いて守ることも必要じゃないのか。
松田直樹や中田浩二ら最終ラインの選手たちが宮本らと忌憚なく意見をぶつけ合った。その結果、ハイラインを維持するのではなく、状況に応じて引いて守ることにした。トルシエの要求とは異なるが、選手たち曰く「戦術をアレンジ」したのだ。
ロシア戦は選手自らが考えたことがゲームに活かされ、結果につながった。不安を90分間で自信と可能性に変えたのである。
試合後のミックスゾーンはいつもと全然違った。
激戦を制してW杯初勝利という歴史的瞬間に立ち会えたせいか、僕もロッカーを訪れた小泉純一郎首相のように興奮し、頭の中ではなぜかB'z『ultra soul』がリフレインしていた。彼らの勇気あるプレーに“ウルトラソウル”を感じたのかもしれない。
試合後のミックスゾーンは、いつもとまったく違っていた。あれほど明るく、好意の空気に包まれていたのは初めての経験だった。もっとも選手は90分間で1分たりとも気を抜けない厳しい試合を戦い抜き、疲労困憊の表情だったのだが……。のちに韓国はベスト4まで進出したが、日本もどこまでいけるのか、期待を大きく膨らませてくれた。
視聴率は日本代表戦歴代1位の66.1%。勝利を祝うファンで渋谷のスクランブル交差点が占拠され、道頓堀川では秋でもないのに100人以上がダイブした。
当時、神宮前に会社を立ち上げたばかりの僕は、日本でワールドカップを経験する機会はもうないだろうと社の女子2名にロシア戦のチケットを渡した。サッカーはよく分からずとも楽しんでいたようだが、ハーフタイムにトイレと飲み物を買うのに席を離れて稲本の決勝ゴールを見逃した。それでも勝利の瞬間は隣の席の人と抱き合って喜び、かつてないほどの興奮と感動を覚えたという。