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五輪を連覇中の女子スター選手、
セメンヤを狙い撃ちした国際陸連。
posted2018/05/09 16:30
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
「こんな規則を作る暇があったら、もっと違うことに時間を割いてほしい」
先月末に国際陸上競技連盟(以下、国際陸連)がある規則を発表すると、トップ選手たちが怒りとフラストレーションを口にした。
「こんな規則」とは、男性ホルモンのテストステロン値が高い女子選手に対して出場資格を制限する。しかし値が高い選手は投薬によって基準値を下回れば出場を認める、というもの。この規則は2018年11月から採用されることになった。該当する選手が薬物摂取を拒否した場合、来年のドーハ世界陸上、東京五輪への出場には赤信号が灯る。
この規則の問題点には、いくつかの突っ込みどころがある。
検査の対象がハードルを含む400mから1600mの間の種目に限られている点。
また意図的にテストステロン値を下げることでパフォーマンス低下が否めなくなる点だ。
陸上ファンならお気づきだと思うが……国際陸連が一部の種目に絞ったのは、明らかに南アフリカのキャスター・セメンヤを狙い撃ちしているからである。
ライバル選手たちが不公平さを訴える発言。
セメンヤは「アンドロゲン過剰症」と呼ばれる症状で、男性ホルモンの一種であるテストステロンの値が、平均女性の3倍あると言われている。
2009年ベルリン世界陸上の800mで優勝して以来、世界陸上では3つの金メダル、ロンドン五輪、リオ五輪では連覇を達成。この種目で絶対的な存在として君臨しているセメンヤだが、この規則が生まれたのは、リオ五輪の結果が大きく影響している。
セメンヤがリオ五輪でも圧倒的な強さで優勝。レース後に他の選手とハグをしようとしたところ、一部の選手が拒否。
6位に終わったイギリスのリンゼイ・シャープは怒りと失望の表情で、メディアに対してセメンヤと走ることの不公平さを訴えたのである。