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五輪を連覇中の女子スター選手、
セメンヤを狙い撃ちした国際陸連。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2018/05/09 16:30
リオ五輪、女子800m決勝でのセメンヤ。現時点では圧倒的な強さを誇るものの、自己ベストは世界歴代8位にとどまる。
まるで拷問のような仕打ちを受けたセメンヤ。
セメンヤが国際舞台に現れたのは2009年ベルリン世界陸上の時だった。
他の女子選手よりも逞しい体つき、低い声、言葉遣いなどから、800mの予選、準決勝とラウンドが進むうちに、「本当に女子なのか」と性別を疑う声が上がった。
決勝で金メダルをとるとその声はますます大きくなり、結果、国際陸連はセメンヤの性別検査を実施。
検査はヒゲなどを含む体毛の長さや生え方、性器の確認などをはじめ数項目に渡っていたが、当時18歳のセメンヤには拷問のような仕打ちだったことは想像に難くない。
歓喜の表彰式の直後、想像を絶する悲しみに。
検査後に国際陸連の関係者がマスコミに彼女が両性具有であることを漏らし、大々的に報じられた。表彰式の後にマスコミに囲まれた彼女は悲しみに打ちひしがれていた。
彼女は地元ではボーイッシュでスポーツ好きな女の子、そんな感じで周囲に見守られてきたのではないだろうか。
足の速さを評価され、地元の大会から南アフリカ選手権、そして世界大会へ羽ばたいた。そこで金メダルを獲得し、本来であればうれしさで満ち溢れるはずが、まさか性別検査を受けさせられ、世間から凄まじいほどの好奇の目で見られるとは想像すらしていなかっただろう。
あの時の、悲しすぎて涙すら出ない――といったセメンヤの表情を今もはっきりと覚えている。
南アフリカの白人の女子選手が怒りに満ちた表情でメディアに食ってかかったことも鮮明に記憶している。
「あなたたちは酷すぎる」
うつむきながら歩くセメンヤをかばいながら、その女子選手は顔を真っ赤にして、怒りで震えていたが、それはセメンヤの心の声を代弁したものだったと思う。