酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
1000奪三振の則本昂大、実は……。
新たな投球術を示すデータの存在。
posted2018/04/12 16:30
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kyodo News
東北楽天ゴールデンイーグルスの則本昂大は、4月6日のソフトバンク戦で内川聖一から空振り三振を奪い、1000奪三振を達成した。
プロ野球史上147人目だ。さして珍しい記録ではない。
アメリカじゃ大谷翔平がアメコミのヒーローも真っ青の大活躍をしてるじゃないか、なんでそんな小さな記録の話をするんだ、と言われそうだが、記録マニアとしては、見逃せない。
則本昂大は今、進化しようとしている。それが数字からうかがえるのだ。
そもそも、則本の1000奪三振のペースは尋常のものではない。
NPB史上147人いる1000奪三振選手のK/9(9イニング当たりの奪三振数)を見ればそれがはっきりわかる。※は現役。数字は4月8日現在。
1 藤川球児 11.70 (814.2回1056奪三振)※
2 野茂英雄 10.31 (1051.1回1204奪三振)
3 則本昂大 9.39 (963回1005奪三振)※
4 杉内俊哉 9.28 (2091.1回2156奪三振)※
5 伊良部秀輝 8.97 (1286.1回1282奪三振)
6 ダルビッシュ有 8.87 (1268.1回1250奪三振)
7 石井一久 8.84 (2153.1回2115奪三振)
8 松坂大輔 8.70 (1408.2回1362奪三振)※
9 田中将大 8.47 (1315回1238奪三振)※MLB
10 メッセンジャー 8.46 (1368.2回1287奪三振)※
最近の投手ばかりだ。今どきの投手は速球だけでなく、フォーク、スライダー、チェンジアップなど空振りを奪える球を持っているので、三振でアウトカウントが稼げるのだ。
1位は救援投手の藤川球児。2位、3位に先発投手の野茂、則本。これだけを見ると、そうか、則本は野茂英雄に次いですごいんだな、と思うかもしれないが、そうではない。
この10人のK/BB(三振をいくつ取る間に四球を1つ出すか)を比べるとこうなる。
1 田中将大 4.50 (1238奪三振275与四球)
2 則本昂大 4.15 (1005奪三振242与四球)
3 藤川球児 4.01 (1059奪三振264与四球)
4 ダルビッシュ有 3.75 (1250奪三振333与四球)
5 杉内俊哉 3.51 (2156奪三振614与四球)
6 メッセンジャー 2.99 (1287奪三振431与四球)
7 松坂大輔 2.69 (1362奪三振507与四球)
8 伊良部秀輝 2.30 (1282奪三振558与四球)
9 石井一久 2.25 (2115奪三振941与四球)
10 野茂英雄 2.05 (1204奪三振588与四球)
奪三振が多くても、このK/BBの値が小さい投手は、いわば稼ぎ屋の浪費家だ。派手に三振を奪うから羽振りは良さそうだが、走者を出すから家の中は火の車というイメージだ。
則本は楽天の先輩の田中将大と同様、稼ぎ屋だが倹約家なのだ。チームにとってはこれほど頼りになる投手はいない。