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池江璃花子から“世界のIKEE”へ。
競泳日本選手権で見せた劇的成長。
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT
posted2018/04/10 17:00
女子50mバタフライ決勝直後の池江璃花子。自己ベストによる日本新記録で笑顔がこぼれた。
世界大会のメダルや表彰台より大事な自己ベスト。
池江にとって、水泳における最大のモチベーションは、自己の記録を更新することにある。
もちろん、世界大会でのメダル獲得、表彰台獲得など、そういう短期的な目標はある。だが、それよりも池江にとっては、記録こそが自分が競技を行う上で、最も重要な土台になっているのである。
そのため、池江は「日本記録更新」という言葉をほとんど使わない。日本記録かどうかにかかわらず、自身の記録の更新、つまり「自己ベスト」こそが目標のすべてなのだ。
だからこそ、2017年シーズンに池江は苦しんだ。
世界選手権で流した涙の理由。
4月の日本選手権、5月のジャパンオープン2017でも、自己ベストが出なかった。そして、7月の第17回世界水泳選手権(ハンガリー・ブダペスト)でも、それは同様だった。
世界水泳選手権の2日目、100mバタフライで自己ベストには届かず57秒08の6位に終わり、池江は涙を流す。
「力が足りないというか、実力不足だと思います。自分の力が(世界に)及ばなかったことが、悔しいです」
その理由は分かっていた。
五輪という夢の舞台で、自己ベストを更新して5位という結果を経て、どうしても次へのモチベーションを保つことができなかった。
燃え尽きるには早い、というかもしれないが、スポーツ選手にとって、夢であったことが現実となり、そこで結果を残せると、心の片隅に満足感が住み着いてしまう。
頭では次の目標を立ててトレーニングを積まなければならないと分かっていても、その満足感が足を引っ張ってしまう。まさに底無し沼にずぶずぶと、少しずつ、でも確実に沈んでいくような感覚。それが、燃え尽きの原因のひとつだ。
そこから抜け出すのは、容易ではない。達成した目標を超える高い目標を成し遂げるには、当然これまでしてきた以上の努力をしなければならない。自分が経験した苦しみを上回る苦しみが待っている。それを明確に頭と心と、身体で理解してしまい、なかなか踏み出せないのだ。