野ボール横丁BACK NUMBER
三重の1番・梶田蓮は天才だった。
仲間たちが信頼した圧倒的な観察眼。
posted2018/04/04 11:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
三重の1番打者・梶田蓮には出塁することともうひとつ、大事な仕事があった。相手ピッチャーのボールの印象を話し、基本的な攻略法を指示するのだ。
「……なんとなく、わかるんです」
口下手な梶田に代わって、小島紳監督がこう言葉を補う。
「2番の浦口(輝)の方が一塁までの到達時間は速いので、彼を1番にしてもいいぐらいなんですけど、梶田には他の選手にない観察眼がある。ピッチャーの細かい癖とか球質を正確に伝えてくれる。そのお陰で、うちは最初の打席からでも思い切りスイングができるんです」
ただし、ときにアドバイスが高度過ぎることもある。
準々決勝の星稜戦では、2番手の奥川恭伸について、こう進言した。
「変化球が多いから、振りにいく中で、見ていけ。打ちにいきながら、ボールだと思ったらバットを止めろ」
そのアドバイスに対し、浦口はこう苦笑する。
「梶田しかできない。感覚でやる男なんで。ある意味、天才です」
しかし3番の曲孝史朗は、できるできないにかかわらず梶田の印象を聞くだけでもぜんぜん違うのだという。
「何もないと先入観だけでいってしまうんで。梶田が言ってくれると、実際に打席に立ったときの球筋を具体的にイメージできるんです」
大阪桐蔭の先発に対して「振っていけ」。
準決勝の大阪桐蔭戦の先発は、柿木蓮だった。
梶田は最初の打席で、4球目を打ち一塁ゴロに倒れた。ベンチに戻るなりみんなにこう伝えた。
「球はそんなに走ってない。球質も軽いから、どんどん振っていけ」
そのアドバイスが3回表に生きた。
9番・井上裕斗、1番・梶田、2番・浦口の3連打で、幸先よく2点を先制する。
浦口はこう感謝を口にする。
「あいつが言ってくれると、なんか打てそうな気になるというか、不思議なほど気が楽になるんです」