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変化、張り差し、カチ上げが激減。
大相撲3月場所で何が起こってる?
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2018/03/20 08:00
首位をひたはしる3月場所唯一の横綱・鶴竜(右)。この戦術の変化は、今後も続くのだろうか。
変化も、張り差しも、カチ上げも激減!
4日目にそのことに気付いた私は、以降3日間の幕内の取組を確認してみることにした。
まず、立ち合いの変化だ。
阿炎が1回、そして7日目に千代翔馬が1回行った以外、目につくものはほとんど無かった。石浦のように立ち合いで少し体を開いて受ける力士は居たが、変化というほどのものではなかった。
では、張り差しはどうか。こちらも、松鳳山が少し目立つ程度だ。他の力士もたまに出しているが、一日に多くても2番程度である。
さらに驚くべきは、カチ上げだ。この数日、カチ上げを繰り出した力士はほぼ居ないのである。
これは、明確な変化だ。最初は偶然だと思ったが、複数日にわたって調べてもそれは変わらなかった。もはや「傾向」と言ってもよいのではないかと思う。
中心にいた白鵬のスタイルが伝播。
朝青龍が去ってからの大相撲は、白鵬の時代だった。本人が双葉山や大鵬といった名横綱に言及したように、大相撲人気がどん底だった頃の白鵬は“後の先”の相撲を目指し、それを体現した。
白鵬が大横綱の系譜の相撲を確立し、強さを見せ続けたこと。そして遠藤や逸ノ城、そして照ノ富士のように横綱に挑む新世代の力士が登場したことによって、大相撲人気は回復の一途を辿った。
だが後に、白鵬の相撲は大きく変化した。“後の先”の相撲から脱却を図ったのだ。強烈な張り差しやカチ上げも、大事な一番での変化も、そして猫だましまでもが白鵬の中では選択肢だった。
全ての選択肢を持つ白鵬に対して、他の力士は対策に手を焼いた。鶴竜は横綱を決めた場所で白鵬にアッパーカットのような角度で張り手を見舞った。日馬富士は白鵬を超える圧倒的なスピードで対抗した。そして、稀勢の里は左に徹底的にこだわった。
そして、白鵬は他の力士達の取り口にも影響を与えた。あらゆる取り口を選択肢とするスタイルを採用する力士が現れたのである。こうした相撲は物議を醸すこともあったが、大相撲の中心に白鵬のスタイルは存在していた。