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ボルダリングとはちがう難しさを実感。
リードの奥深さと日本人選手の可能性。
posted2018/03/19 11:00
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph by
Shigeki Yamamoto
“持久力のECO運転”、その慣れと巧さが勝敗を分けたと言っていいだろう。
3月3日・4日に行われた『リード日本選手権』は、ボルダリングで発揮する高い登攀能力を武器に挑んだ選手たちが、リードの奥深さに跳ね返される結果になった。
ボルダリングは高さ5m以下の人工壁に、スタートからゴール(TOP)までに平均7手ほどのハンドホールドを使った課題をどれだけ多く登れたかで競う。
一方、リードは高さ12m以上の人工壁に設置されたルート(課題)をどこまで高く登れたかで争う。ルートは最低でも全長15m・幅3mあり、使われるホールド数もハンドホールドだけで30個~50個とボルダリングよりも圧倒的に多い。
第一人者として国内のスポーツクライミングシーンを牽引する野口啓代(のぐち・あきよ)は、ボルダリングとリードの違いを次のように説明する。
「ボルダリングは一手一手の強度が高くて、課題内容もパワーならパワー、バランスならバランスと、特化したものになっています。でも、リードは1本の課題の中に、バランスだったり、保持力だったり、パワーだったり、ダイナミックな動きだったりと、さまざまな要素が少しずつ入っています。ひとつひとつのムーブの強度は、ボルダリングほど難しくないのですが、局面ごとにいろいろな体の使い方をしなければいけないので、ボルダリングとは違った難しさがあるし、持久力が必要になります」
ふたつの種目には、ほかにも異なる点がある。ボルダリングが制限時間以内なら何度も同じ課題にトライできるのに対し、リードは1本のルートにトライできる回数は1度しかない。
そして、もっとも違うのは登りながら安全確保をするか、しないかにある。ボルダリングは落下のダメージは地面に敷いたマットが受け止めるため、クライマーは基本的には登ることにだけ集中できる。一方リードは、クライマーは身につけた装具(=ハーネス)と結んだロープを、ルートに沿って約2m間隔にある確保支点(正確には確保支点に付けられたクイックドロー)にクリップしながら登っていく。ロープを確保支点に掛けずに登り進むと、フォール(落下)した時にグラウンドフォール(地面に落下)などの大事故に繋がるため、クリップをひとつでも忘れて先に進むと競技終了になる。