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ボルダリングとはちがう難しさを実感。
リードの奥深さと日本人選手の可能性。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byShigeki Yamamoto
posted2018/03/19 11:00
リードW杯での優勝経験がある是永敬一郎が今大会を制した。
「クリップ」がリードの奥深さになる。
2月のボルダリング・ジャパンカップ(BJC)で4位になった原田海(はらだ・かい)が、リード日本選手権の準決勝で散った理由はこれだった。高いボルダー力を生かして決勝進出を目標にしていた18歳の新鋭は、スタートから3つ目の確保支点を見落としたシーンを振り返る。
「練習不足です。クリップはまったく見えていなくて、登ることに集中していたので観客がざわめいていたのにも気づかなくて。苦労するかなと思っていたスタート直後のパートを軽快に登れたことで、意識が決勝進出ラインになると予想していたゴール手前に行ってしまい、それでクリップを見落としましたね。みんなはオブザベーション(課題を下見する時間)の時に、クリップをどのホールドでするか決めているようなんですけど、僕は登りながら決めていて。そこは今後の改善点という意味では収穫ですけど、ボルダー力が発揮できなくて悔しいですね」
原田をはじめ、ボルダリングをメイン種目にする選手は、一年を通じてボルダリングの練習に重点を置き、リードのトレーニングは大会前に数週間~1カ月ほどというケースが多い。そうするとリードで求められる持久力は養えず、かわりにボルダーの高い突破力で補おうとして素早く登ろうとしてしまう。しかし、テンポの良さを求めるとリスクは増える。墜落から安全を確保するためのクリップが、時にフォールを招く遠因になるというのが、リードのおもしろさであり、奥深さでもある。
「僕はリズムよく登っていきたい」
昨年の同大会は4位だったが、今年は準決勝で沈んだ五輪強化選手の緒方良行も、「僕はリズムよく登っていきたいタイプなので、極端なことを言えばクリップさえなければリズムは崩れないし、もしトップロープなら完登だってできるレベルの課題なんですよね」と、クリップの存在を恨めしそうに悔やんだ。
15mの高さの人工壁の統一課題を登った速さを競争するスピード種目も、リード同様にロープでクライマーの安全は確保する。ただし、リードとは異なり、あらかじめロープは人工壁上部の終了点に掛けられたトップロープのため、クライマーは登りながらロープを確保支点にクリップする必要はない。
こうした安全確保の方法が違うのは、種目の発展の歴史によるところが大きい。ロープを使って安全を確保しながら高度を稼ぐクライミングは、1800年代後半に旧東ドイツのエルベ砂岩塔地帯、イギリス湖沼地方、アメリカ東部などで同時代に世界各地で多発的に誕生し、地域や目的に応じてスタイルを変えながら進化してきた。