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小平奈緒、寺川綾、伊調馨の共通点。
「環境の変化」は進化につながる。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2018/03/12 11:00
平昌五輪で2つのメダルを獲得した小平。オランダ修行など自ら新たな環境を求めた。
選手が意見を言えることに驚いた。
いざ指導を受け始めると、驚きをいくつも感じたという。
「選手が意見を言うことができる、というのがまず新鮮でした。平井先生は『どう思う?』って聞いてくれるんですね。意見を押しつけないんです。それに個々の練習メニューの意味を説明してくれる。これはこういう強化のために行うんだと、選手に理解させながら進めてくれるんです」
その後、鮮やかに復調した寺川は、ロンドン五輪で2つの銅メダルを獲得するなど、日本女子競泳陣の主軸として活躍するに至った。
そしてまたレスリングの伊調馨も、環境を変えたことが奏功した1人だろう。
伊調は、2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪と連覇した後、休養を経て、至学館大学から首都圏に練習拠点を移して競技を続けた。その後の変化は、伊調を長年見続けていた関係者には顕著に感じられた。
ロンドン五輪後、別人のような攻撃力に。
北京五輪までの伊調は、タイプとしては受けに強みを持っていた。つまり「1-0で勝つ」ような戦い方を志向していた。北京でも準決勝は2-1、決勝は2-0で勝利している。吉田沙保里が豪快なタックルを決めて勝つのとは対照的で、そのために少々、吉田の陰に隠れていた感があるのは否めない。
ところがロンドン五輪では、まるで別人であるかのような試合を見せた。63kg級(当時)で小柄な方だった伊調は、計量を終えて食事をしたあとは、対戦相手と数kgの体重差が生じることもあった。にもかかわらず、多彩かつ圧倒的な攻撃力を背景に、試合開始から積極的に技を繰り出してポイントを取っていった。
初戦となった2回戦では、北京五輪準決勝で苦戦したマーティン・ダグレニアー(カナダ)と対戦するも6-1で一蹴。3回戦以降、決勝まですべての相手を5-0で退けた。
しかも、ロンドン到着後の練習で左足首の靱帯の1本半を切る重傷を負い、スパーリングもままならない中での戦いだったのである。