オリンピックへの道BACK NUMBER
小平奈緒、寺川綾、伊調馨の共通点。
「環境の変化」は進化につながる。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2018/03/12 11:00
平昌五輪で2つのメダルを獲得した小平。オランダ修行など自ら新たな環境を求めた。
競技への意欲を手に入れるきっかけに。
伊調自身、変化を自覚していた。
「(過去2大会とは)まったく別物でした。北京が終わってからの4年は、生まれ変わったと言えば大げさですが、自分のレスリングスタイルを変えたので初めてのオリンピックという感じでしたし、自分にとっては初めての金メダルという気もします」
拠点を移したあと、新たなコーチのもと、男子選手に混じって練習する中で、これまで知る機会のなかった技術や理論を学んだ。そしてレスリングの奥深さを知った。
その経験は、実力を引き上げることだけに寄与したわけではない。伊調は北京五輪のあと、一度は引退を考えた。ただ周囲の声もあって休養という選択を取り、カナダに留学した。新たな環境の中、レスリングを純粋に楽しむ選手たちの姿を見て、まだ未知の世界があるんだと気づいたことが、ふたたび意欲を取り戻すきっかけになった。
環境の変化がなければ、「もっともっとやりたいことがある、やれることがあると思います」と、充実の表情を浮かべる伊調はいなかった。
「応援するのは指導者として当たり前」
小平、寺川、伊調の三者から見て取れるように、指導者や練習場所といった環境の変化が、選手にとって新たな地平を切り拓くことがある。どれだけキャリアを積んでいても、まだ知らない世界が広がっている可能性はある。彼女たちの姿は、今行き詰まっていると感じている選手にとって、これからを考えるときのヒントとなりえるだろう。
そして、本当に選手を大切に思い、今後の成長を考えてくれる指導者やクラブなら、快く新しい場所へと送り出してくれるはずだ。間違ってもその先行きを呪ったりはしない。
もし、そんな指導者やクラブであったならば、離れることが正しい選択だろう。
寺川が移籍前に所属していたクラブの指導者が、寺川のみならず、選手の移籍に関してこう語っていたのを思い出す。
「選手がこうしたいと思って行動したら、それが選手のためになるなら励ましてやる、応援してやるのは指導者として当たり前のことでしょう」
イトマンスイミングスクール、奥田精一郎氏(現名誉会長)の言葉である。