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ヴェルディ2年目のロティーナ哲学。
栄光のユース10番・藤本寛也を抜擢。
posted2018/03/09 10:30
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
その瞬間、場内のざわめきは止み、しんと静まり返った。
2月11日、開幕前のファン感謝イベント『VERDY FAMILY FES. 2018 in よみうりランド』。壇上に立ったロティーナ監督が、「今年の目標をお話ししましょう」とにこやかに話を切り出したからだ。
「よい仕事をすることです。全力で働き、ファンが東京ヴェルディというクラブに対して誇りを持てるようにすること。シーズンが進むにつれ、具体的な目標はついてくるでしょう。いまは毎日ベストを尽くし、チームが成長していくこと。それが唯一の目標です」
それだけ言って、さっさと元の位置に戻った。就任2年目となるスペイン人の指揮官は、万事この調子である。大風呂敷を広げることなく、リップサービスもない。その分、言葉には信頼を置ける。
今年の質を決めるのは、今年の仕事。
昨季、東京Vは5位の成績でクラブ初のJ1昇格プレーオフ出場を果たした。今季はさらにその上へと周囲の期待感は高まるのが自然だ。ロティーナ監督が意図的に関心を逸らして見せたのは、そう簡単ではないとたしなめる意味合いが込められていたように思う。
歴史的に見て、東京Vに与えられる前評判ほど当てにならないものはない。期待を背に受け、意気込みの強さと裏腹に成績が低迷する一方、逆境においてはしぶとさを発揮する。極めつけは2005年だ。
前年度の天皇杯で優勝し、ゼロックス杯まで制しながら、フタを開けてみれば泥沼のシーズン。6つ勝つのがやっとで、17位でJ2に降格した。
このスティグマ(負の烙印)は、いまだに消し去れていない。継続のアドバンテージを生かせず、成果を積み上げられない背景には、どんな要因が考えられるのか。今季が始まってすぐ、ロティーナ監督に問うたことがある。
「長い期間、好調を維持するチームがあり、われわれもそうありたいと努めています。ただし、昨年の私の仕事は、昨年のチームがよい結果を出すために行ったものです。それ以外の価値は持ちません。同様に、今年のチームの質を決めるのは、今年の仕事です」