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湘南国際を運営の坂本雄次さんに聞く、
「選ばれる市民マラソン」の作り方。 

text by

柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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photograph bySHONAN INTERNATIONAL MARATHON

posted2017/12/18 08:00

湘南国際を運営の坂本雄次さんに聞く、「選ばれる市民マラソン」の作り方。<Number Web> photograph by SHONAN INTERNATIONAL MARATHON

大会のゴール付近の様子。広々としたエリアが確保されており、参加した選手たちをサポートする施設、スタッフも充実していることが分かる。

湘南国際のコースレイアウトに秘められた“物語”。

 もうひとつ、坂本さんに聞きたかったのがコース設計についてだ。きついポイントにアップダウンと折り返しが配置される一方、苦しい場面で富士山や相模湾の絶景が目に飛びこんでくる。個人的にはじつに心憎いレイアウトだと感じているのだが、このコースはどのようにしてできあがったのだろうか?

「湘南国際のコースのいちばん大きな要素は、開放感だと思っています。防砂林があって、海が見える場所は限られているんですけど、往路では湘南大橋で一気に視界が開けて、心も足も軽やかになります。そして、江の島が近づくときらめく海が見えてくる。復路は何といっても富士山の眺めがすばらしい。私が134号線で大会を開こうと思った最大の理由が、この景色なんです。

 最後、大磯の会場をいちど通り過ぎたあとに折り返しがあるのは、距離をとるために仕方なく作ったもので、このコースの欠点でもあります。一般的な大会では、距離を稼ぐために、迂回路を作ることが多いんですが、このコースは海岸線を走るのが醍醐味。私としては内陸側にヒゲを出すような迂回路を作りたくなかったんです。となると、ゴール前を通過したあと約5kmをとらなければいけなくて、やむなくああいう形になりました。

 134号線は車で走っていると平坦に見えますが、じつは細かなアップダウンがたくさんあります。それがきついという人もいますが、私はランナーにとっていい面もあると思っているんです。ずっと平坦な道を走っていると、着地も常に一定で、筋肉も同じところばかりを酷使することになる。でも、微妙にアップダウンがあると、筋肉の動員の仕方が変わって、走りにリズムが出ます。

 私はマラソンには“物語”が必要だと思うんです。スタートから最初の5~6km、ランナーの心は昂揚感でいっぱいですよね。それから、体が慣れてきて、呼吸とスピードがうまくシンクロすると、『いくらでも走れるんじゃないか』という気持ちになる。その快感がかなりの距離続きます。湘南のコースでいえば、湘南大橋から江の島の折り返しすぎまでの区間です」

意図的に箱根駅伝の3区、8区と重なるコースにした。

「ところが、後半になると筋疲労が出てきて、とくに25kmから35kmでは己と対峙することになる。それが復路の湘南大橋から西湘バイパスへの上りの区間。そして、最後の7kmはゴールの感動に向かっていきます。ラストの0.195kmはクライマックス。大磯の会場に上る短い坂を乗り越え、フィニッシュゲートが見えると、一気に感動が押し寄せる。

 昂揚感、快感、自分との対峙、感動──ランナーの気持ちの変化と、コースのストーリーが一致すると、マラソンはおもしろくなります。

 箱根駅伝の3区、8区と重なるコースにしたのは意図的です。自分が駅伝選手と同じコースを走っているんだなと思うと、気分が盛り上がりますよね。正月にテレビ中継を見ながら、『自分はあの道を走っていたんだ。あそこに起伏があって苦しかったなあ』というふうに思い出すと、箱根駅伝がさらにおもしろくなると思います」

【次ページ】 マラソンは一見単調に見えるが、内面にはドラマが。

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