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湘南国際を運営の坂本雄次さんに聞く、
「選ばれる市民マラソン」の作り方。
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph bySHONAN INTERNATIONAL MARATHON
posted2017/12/18 08:00
大会のゴール付近の様子。広々としたエリアが確保されており、参加した選手たちをサポートする施設、スタッフも充実していることが分かる。
神奈川県警の全面協力、そして河野太郎さんの存在。
「神奈川県警を訪ねてみたら、なんと都市交通対策室の室長さんが24時間マラソンのファンで、私の書いた本まで読んでくれていたんです。おかげで、非常にウェルカムな姿勢で話を聞いてもらえました。そして、『準備の段階から警察の事情を汲み取って計画してくれるなら、ぜひ協力したい』と言ってもらうことができた。これは大きかったです。
県警の本部長さんも非常に熱心な方で、『どういうコースを考えているのか見てみたい』ということで、自ら現場まで実査に来られました。そうやって、交通の要衝である134号線を止めるための交通規制や、迂回路の設定作業が始まっていったんです。
もうひとつ大きかったのが、地元の国会議員、河野太郎さんの存在でした。じつは私が行っている散髪屋さんに、河野さんも来ていたんです。ある日、湘南平で練習をして下りてきたら、神社に河野太郎さんがひとりでお参りに来ていた。当時、河野さんが神奈川陸上競技協会の会長を務めていたこともあって、『じつはこんな計画を考えているんです』と打ち明けてみました。そうしたら、『いいじゃないですか。やりましょう』と乗り気になってくれた。
マラソン大会を作るには、道路の使用許可にはじまり、予算の裏づけ、運営組織の構築、地域の合意形成など、やるべきことがたくさんあります。そのときはまだ、お金も組織もありませんでした。それでも、いきなり警察の協力と河野太郎さんの後押しをもらえることになった。こうなったら前に進むしかありません」
公金ゼロで大会を運営するために――。
「幸運な出会いで開催の前提条件は整ったものの、問題は予算です。最初から自治体の予算はあてにしていませんでした。マラソン大会の運営には税金を1円も使わない──それが私の基本方針なんです。
理由は、これから地方自治体の財政が厳しくなる中で、税金を使うことを前提にしていたら、大会が開けなくなることが目に見えているからです。だったら、最初から税金を使わない大会を作ったほうがいい。
いま日本の大会の参加料が海外の大会と比べて圧倒的に安いのは、予算に公金が投入されているからです。昔ながらのマラソン大会は、数千円の参加料しかとらないところが多かった。そこに東京マラソンで参加料1万円が実現し、ひとつの基準になっていきます。ただ、東京マラソンもひとり1万円ではとても予算が足りないから、公金を使い、協賛企業を募り、テレビ放送を行うことで、まかなっているという状況です。
一方、海外の場合、たとえばニューヨークシティマラソンは参加費が3万円以上します。受益者負担をベースにして、交通過密の大都市でマラソンを開催しようと思ったら、どうしてもそれぐらいの費用はかかるんです。
とはいえ、日本の場合、参加者から見た相場を考えると、いきなりそこまで高くすることはできません。さらに、税金に頼らないとなると、運営会社である我々が億単位の資金を用意しなければなりません。
やむなく、私は銀行から4000万円の借金をすることにしました。たとえ赤字が出たとしても、この機会に立ち上げなかったら、二度と湘南でフルマラソンの大会を開くチャンスはないと思ったからです。
参加料を原資に、企業の協賛金を上乗せして開催した結果、初年度は大幅な赤字になりました。それはすべてランナーズ・ウェルネスでかぶりました。5年目までは毎年、苦労の連続でした。正直、経営は大変でしたが、いつかは必ず参加料を原資にして大会をやっていけるようになるはず。いや、そうしなければ、日本の市民マラソンの未来はない。そう思って耐えました」