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湘南国際を運営の坂本雄次さんに聞く、
「選ばれる市民マラソン」の作り方。 

text by

柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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photograph bySHONAN INTERNATIONAL MARATHON

posted2017/12/18 08:00

湘南国際を運営の坂本雄次さんに聞く、「選ばれる市民マラソン」の作り方。<Number Web> photograph by SHONAN INTERNATIONAL MARATHON

大会のゴール付近の様子。広々としたエリアが確保されており、参加した選手たちをサポートする施設、スタッフも充実していることが分かる。

湘南国際マラソンはこうして生まれた。

 当初は、寛平さんが練習で走っていた富士五湖周辺のコースを使い、「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」を企画。さらに、「星の郷八ヶ岳野辺山高原100kmウルトラマラソン」「24時間リレーマラソン」など、ウルトラの大会を中心に事業を広げていく。そして2007年、ついにフルマラソンの大会として湘南国際マラソンの開催に漕ぎつける。奇しくも東京マラソンのスタートと同じ年だった。

「湘南国際マラソンは、競技マラソンではなくて、市民マラソンであるというのが最大の特徴です。エリート選手がオリンピックをめざして競うレースではなく、一般のランニング愛好者に提供する大会。立ち上げの背景も含めて、日本では特異な存在で、どちらかというと、海外のマラソンに近い大会だと思っています。

 日本のスポーツって、基本的にはすべて体育、教育からスタートしていますよね。マラソンの競技会も、教育の一環、あるいは選手強化のために、文科省、日本体育協会という大きな括りの中で行われていました。

 一方、大人のための市民マラソンも、日本の場合は地域振興策や観光振興策という大義名分のもと、自治体が中心になって開かれるケースがほとんどでした。道路の使用許可を得るためにも、そういう大義名分が必要だという事情もあったんですが、要するに日本のマラソン大会は、役所ありきで開かれるものが多かったということです。

 その中で湘南国際は、『ランニング愛好者にマラソンを楽しんでもらう』ということを声高にうたっている大会です。そういう大会は国内ではほとんどありません。

 私の中での優先順位は、第一にランニングというスポーツを大勢の人が楽しめるようにすること。その結果として、健康を享受する人が増える。さらに、マーケットが広がって、経済効果も生まれる。その部分は後付けでいいんじゃないかと考えています」

海外のマラソン大会は、個人が始めたものが多い。

「海外の市民マラソンの大会も、もともとは地元のジョギング愛好家が始めたものが多いんですよね。有名なホノルルマラソンも、ハワイ州が主催しているわけじゃなくて、心臓外科医のジャック・スキャッフさんという方が、ウォーキングやジョギングが心臓病の予防にいいということを提唱して、仲間たちと始めた大会です。

 湘南国際も、発端となったのは私の個人的な思いでした。私は茅ヶ崎で生まれて、この歳まで湘南から出たことがありません。子どものころはまだ国道134号がなくて、海岸には白砂青松の景色が広がっていました。それがやがて車社会になり、道路が整備され、昭和28年に134号ができました。

 自分がランニングをするようになって、『この海岸線で潮風を受けながら走る大会ができたら、どんなに気持ちいいだろう』と思うようになりました。会社を立ち上げた当初から、『いつかはここでマラソンを』という思いを持っていたんです。

 じつは、それまでも沿線の三市二町の関係者が何度かマラソン大会を企画したことがあったそうです。ただ、国道134号という神奈川県を東西に貫通する幹線道路の使用許可をとることができず、実現には至らなかった。

 それでも私としては諦められず、マラソンの計画に対して警察がどんな反応をするか、非公式にでもいいから話を聞いてみようと思って、あるとき神奈川県警を訪ねていったんです」

【次ページ】 神奈川県警の全面協力、そして河野太郎さんの存在。

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