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それでも、やっぱりフルマラソン。
僕らが湘南国際マラソンに出る理由。
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph bySHONAN INTERNATIONAL MARATHON
posted2017/12/14 11:00
相模湾を望む湘南の海岸沿いを走るマラソン選手たち。運営がしっかりしていて、さらにこれだけ風光明媚なコースは日本にもそう多くはない。
河野太郎・名誉会長が参加選手へ伝えた名回答とは?
このコースレイアウトについて、湘南国際マラソン名誉会長の河野太郎さんが、以前ブログにこんなQ&Aを載せていた。
Q:身体が限界のときに、ゴールの前を一度通過しなければならないのは心が折れます。コースを変更できませんか。
A:それが湘南国際マラソンです。次回に備えて心も鍛えてきてください。
そう、それが湘南国際なのだ。いちどでも湘南国際を走ったランナーは、必ずこの折り返しについて文句を言う。でも、その顔はどこか満足げでもある。
走らない人にこういう話をすると、多くの人が「マゾですね」と言う。まあ、そういう面がないとは言わないけれど、マゾとは少し違う。たぶんランナーというのは、自分を痛めつけたり、苦しむことが好きなわけじゃなくて、それを乗り越えることが好きなのだ。そういう意味で、このコースレイアウトはランナー心理のツボをじつにうまく突いている。
年をとっても、まだまだ成長することはできるぞ!
フィニッシュ会場から「あともう少しだ、がんばれ!」と声援が飛ぶ。でも、脚は鎖をつけられた囚人のように重い。37.4kmの給水所で後ろのランナーと足が接触し、転びかけた。でも、そのショックでスイッチが入り、もういちど体が動き始める。折り返しからは、少しだけスパートをかける。
「今年もやっぱりきつかった。でも、この2年のていたらくを思えば、ずいぶんがんばった」。自分を励ましながら、最後のダメ押しの坂を上り、フィニッシュゲートへ。タイムはネットで3時間17分56秒。ベストには遠く及ばないが、過去6回の中では2番目のタイムだった。「落ちていくばかりじゃない」ということに、ささやかな喜びと安堵感があったのは事実。でも、個人的には数字よりも、“心の持久力”を保てたことが収穫だった。
更衣室でシューズを脱ぐと、足の裏にまたマメができていた。今年は安定して走れたと思ったのだが、着地の動きがあまりよくなかったか……。こんなに何度もマメができるレースも湘南国際だけだ。毎年、何らかの課題が残る。だから、何度も出ることになるのかもしれない。
丘の上に座り、ビールを飲みながら、仲間のゴールを待つ。空は澄み渡り、海はどこまでも青い。レースを終えたあとの午後のひととき。市民ランナー的中年の危機も、実人生の厄介ごとも消え、心が空っぽになる。もしかしたら、そんな束の間の“無”の時間がほしくて、僕らは走り続けるのかもしれない。